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第7回 「ガリットG30」開発秘話 前編 滑らないタイヤをつくれ!常識を覆す3D構造

2003年3月に発売された「ガリットG30」。アイスバーン性能を進化させた新世代スタッドレスタイヤ。
2003年8月に発売された
「ガリットG30」。
アイスバーン性能を進化させた
新世代スタッドレスタイヤ。

2003年8月、旧商品から大幅に性能を向上させたスタッドレスタイヤ「GARIT G30(ガリット・ジーサンマル)」が発売された。新開発のトレッド(※1)ゴム斬新なパターン(※2)の採用。新商品開発の陰には、新進気鋭の一人の技術者がいた。【TOYO TIRES】タイヤ技術部の大橋である。大橋の熱き思いがタイヤ開発の常識を覆した。

終わらない挑戦の日々

1980年代後半、スパイクタイヤ(※3)の禁止を受け、初めて誕生したスタッドレスタイヤ。タイヤメーカー各社は新商品を発表し、アイス路面でのブレーキ性能を競った。

タイヤ開発について語る大橋。大橋のタイヤ開発はこれからも続いていく。
タイヤ開発について語る大橋。大橋のタイヤ開発はこれからも続いていく。

1991年9月、【TOYO TIRES】はクルミの殻を配合したスタッドレスタイヤ「オブザーブX9」を発売。「オブザーブX9」は、クルミ入りのトレッド(※1)ゴムを用いたスタッドレスタイヤとして業界の注目を浴びた。ユーザーの評価も上々であった。「タイヤは人の命を乗せて走るもの。もっと性能を上げなければ!」使命感に燃える【TOYO TIRES】の開発者たちはさらなる挑戦を続けた。

1996年4月、【TOYO TIRES】のスタッドレスタイヤ開発チームに一人の若き技術者が加わった。夏タイヤを担当していた入社6年目の大橋である。大橋は「他社にないスタッドレスタイヤをつくりたい、新しいことがしたい」と大きな夢を持っていた。

恐怖体験から生まれた

スタッドレスタイヤの開発メンバーは毎冬、【TOYO TIRES】の冬季タイヤテストコースがある北海道佐呂間町に足を運んでいた。ここで他社タイヤの乗り比べや条件の異なるアイス路面を体験することで、タイヤ開発の方向性を見出そうというのだ。

──2001年冬、スタッドレスタイヤ開発のきっかけとなる出来事が起こる。
大橋は、テストコースを走行中にクルマをスピン(※4)させてしまった。決してスピードが出ていたわけではなかった。アイス路面上で収まる気配のない横滑りに背筋が凍った。この出来事から、ブレーキ性能の高さに比べて横方向のグリップ(※5)が不足していることを痛感した。「横グリップ(※5)の向上が必要だ」新しいタイヤの開発テーマが決まった。

大橋の疑問

横グリップ(※5)の向上。大橋はタイヤのパターン(※2)に目をつけた。従来のスタッドレスタイヤのサイプ(※6)は進行方向に対して真横に入っている、それが当たり前だった。大橋は疑問に思った。「こういうタイヤは本当にいいのだろうか。なぜ、タテやナナメはないのだろうか」その疑問から開発がスタートした。

サイプの解析

大橋はまず、従来のサイプ(※6)の解析から始めた。制動(※7)時は、サイプ(※6)を進行方向に対して90°に設定しているため、サイプ(※6)に高い力がかかりやすく、中央部で圧力の高い部分が集中する。一方、コーナリング時では進行方向に対して90°に設定してあるため、サイプ(※6)にエッジ(※8)がかかりにくくなる。さらに横方向の力が加わるコーナリングでは、エッジ(※8)効果が減少してしまう。

パターン解析(従来タイプ)

「こんなに接地圧が違っていいのか」そこで大橋は、効果がないと思われていたタテ方向のサイプ(※6)の解析を試みた。
──タテ・ヨコ・ナナメを組み合わせサイプ(=フルベクトルサイプ)は、制動(※7)時もコーナリング時も均一に接地ブロック全体でエッジ(※8)効果を発揮することが確認できた。解析の結果、接地圧の変化によるエッジ(※8)効果の違いが減少、制動(※7)性能とコーナリング性能の両立が可能になった。

パターン解析(フルベクトルタイプ)

さらなる技術革新

大橋のパターン開発はそれだけでは終わらなかった。サイプ(※6)の方向だけなく、深さ方向の切り込みにもこだわった。従来のサイプ(※6)は波型の形状のまま、まっすぐ切れ込みを入れていた。

大橋は考えた。「サイプ(※6)がジグザクなら、駆動や制動(※7)がかかった時に凸凹が支え合うはずだ」波型の側面方向の面にジグザクを入れる(=3Dグリップサイプ)という新しい発想だった。

3Dグリップサイプ断面写真
3Dグリップサイプ
断面写真
サイプ構造の変化比較図
サイプ構造の変化比較図

──大橋のアイディアは当たった。解析の結果、ジグザクの切り込みの追加により、ブロック(※9)剛性が向上、多数のサイプ(※6)の接地性が均一になることで偏摩耗(※10)を抑制する効果も期待できた。こうして、新しいタイヤのパターン(※2)構想がようやく固まった。

社内の説得

しかしある日、大橋は開発部長から忠告を受けた。開発の難しさを知り尽くした一言。「他社も作っていないような設計で、本当にモールド(※11)が作れるのか」だが、大橋は引き下がらなかった。パターン(※2)デザインと T mode(※12)による性能見積もりを提示、このパターン(※2)開発なくしてアイス路面の性能向上が達成できないことを説明した。部長は大橋のタイヤ開発への熱意を感じた。そして、開発は続行された。

サイプの新技術の壁

その矢先、最大の試練が大橋に襲い掛かる。部長の忠告にあったモールド(※11)の製造。【TOYO TIRES】では、モールド(※11)の製造を関連子会社に発注している。今回、新しいタイヤ開発の相談に出向いた大橋は、担当者にモールド(※11)の製造は無理だと言われてしまった。

壁となるのは大橋が考えた2つのサイプ(※6)の新技術。1つは従来の横方向だけでなく、タテ・ヨコ・ナナメと増やしたこと。スタッドレスタイヤのサイプ(※6)の数は、通常3000以下だが、このタイヤは3500にも増やしていた。
2つ目は、ジグザクに入ったサイプ(※6)。ジグザクのサイプ(※6)は3次元の構造をしているため、イメージが伝わらない。当時、3次元CAD(※13)のような便利なツールもなく、ジグザクの切り込みを具現化できなかった。2つの新技術は思わぬ形で大橋を窮地に追い込んだ。

ものづくりの現実

「このままでは、新しいタイヤの開発が頓挫してしまう──」大橋は自らスケッチ図を書き、スタッドレスタイヤの性能向上に不可欠なサイプ(※6)加工であることを訴えた。
実は、大橋はタイヤ設計に配属される以前、モールド(※11)を設計していた。だからこそ、今回のモールド(※11)の製造がどれだけ難しいものかよく分かっていた。

しかし、問題はそれだけではなかった。担当者は言う。「たとえ(モールドの)試作はできたしても、生産は難しい」タイヤが製造される時、ジグザグのサイプ(※6)が精密にタイヤに加工できるのか。ピーク月には、何千回にも達する連続生産に耐えられるのか。課題は山積みだった。もはや、今までのやり方では通用しない。大橋は前例のない、ものづくりの現実にぶつかった…。

「ガリットG30 開発秘話 後編」はこちら

(2004年11月掲載)

(※1)トレッド
タイヤが路面と接地する部分のこと。

(※2)パターン
タイヤの表面にある溝と切り込みで構成された柄や模様のこと。いわば「タイヤの顔」ともいえる部分。

(※3)スパイクタイヤ
滑り止めのため、金属鋲を着けたタイヤ。詳しくは「プロジェクトTOYO:第2回」を参照。

(※4)スピン
(クルマが)回転し、旋回すること。

(※5)グリップ
(タイヤが)路面との摩擦力で発生する力学的な力のこと。

(※6)サイプ
トレッド(※1)に加工した切れ込み。切れ込みでトレッド面を柔軟にして、アイス路面と密着させている。

(※7)制動
ブレーキをかけるなどをして、走行を急に止めたり、スピードを緩めたりすること。

(※8)エッジ
タイヤのブロックやサイプ(※6)にある多数の縁、直角の角。エッジが氷を引っかいている。

(※9)ブロック
タイヤのトレッド(※1)面にある溝で囲まれた部分。1ブロックの大きさは、大型の切手程度。

(※10)偏摩耗
タイヤのある一部の部分だけが、減っていくこと。詳しくは「プロジェクトTOYO:第1回」を参照。

(※11)モールド
タイヤを加硫するときに使う金属製の型。タイヤの金型は、トレッドパターン、サイズごとに異なる。詳しくは「走れ!タイヤくん:第27回」を参照。

(※12)T mode
様々なmode(スタイル/様式/仕様/専用性)のタイヤ開発を可能にするToyo Tire Technologyの総称。

(※13)3次元CAD
立体画像を作図できるCADのこと。CADとはComputer Aided Designの略で、コンピューター支援による設計ツール。



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