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第8回 「ガリットG30」開発秘話 後編 最強スタッドレスタイヤの誕生

「他社にないタイヤづくり」をテーマに、スタッドレスタイヤ開発に取り組む、入社6年目の若き技術者、大橋。【TOYO TIRES】の冬季タイヤテストコース(※1)での恐怖体験をもとに、新しいパターンの採用でアイス性能の向上を目指していた。
だが、複雑なパターンでタイヤを生産できるのか、加工・耐久面など問題は山積みだった。大橋は、前例のないものづくりの現実にぶつかった…。

「ガリットG30 開発秘話 前編」はこちら

新しいタイヤに向けて

長い時間がかかった。半年後、苦闘の末にようやくモールドの試作品が完成した。渋る担当者の心を動かしたのは、大橋のタイヤに懸ける熱意。そして「新しいタイヤを一緒に作ろう」という技術者の思いを共有した結果だった。
モールド完成の後、生産工程での確認に入った。ジグザクのサイプが精密にタイヤに加工できるのか。ピーク月の何千回にも達する連続生産に耐えられるのか。生産工程における懸念を前に、確認に立ち会ったスタッフに緊張が走った。
── モールド担当者のノウハウと細部にわたる図面上での検討の成果が実った。ジグザクのサイプの複雑な形状は心配していた故障もなく、正確にタイヤに加工されていた。モールドの細部をチェックした結果、耐久面でも問題ないことを確認、パターン実用化の目途がついた

審判の時

2002年夏、いよいよ審判の時がきた。試作のタイヤを手に大橋は、設計審査会議(※2)に臨んだ。ここでパターンと性能の達成見込みが審査される。出席者はタイヤの企画、製造、販売のスペシャリストたち。大橋を厳しい目が待っていた。
いいね!このパターンデザインは、高性能を予感させるね」この日の審議は驚くほど、順調に進んだ。出席者の反応は想像以上に好感触だった。決め手となったのは、他社にない新しい発想、新技術のタイヤである点。大橋のタイヤに懸ける熱意が認められ、タイヤ開発は次のステップに進んだ。

開発、再び

だが、安堵はしていられなかった。設計審査会議(※2)では、アイス路面の性能向上に大きな期待が寄せられ、目標とした性能を達成することが求められた。
大橋ら設計スタッフは、トレッドのパターンに最適なコンパウンド(※3)と、そのコンパウンド(※3)に見合う構造設計の検討に入った。「横グリップの向上をどう実現するか。新しいコンパウンド(※3)に、構造をどう組み合わせて改良するか」大橋は、再び新たな壁に直面した。

逆転の発想

スタッドレスタイヤは、夏タイヤに比べて柔らかい。その柔らかさを利用して、氷面に密着する構造になっている。だが、大橋は考えた。「柔らかすぎて、接地面が動きやすく(=滑りやすく)なっているのではないだろうか」スタッドレスタイヤの常識を覆す、高剛性(※4)を求めた逆転の発想。この発想は、T mode による解析でも裏づけが取れていた。
高剛性(※4)にはメリットがあった。夏タイヤに比べて、柔らかいスタッドレスタイヤに不安定感を訴えるドライバーも少なくない。高剛性(※4)はタイヤを安定させ、運転しやすくするのだ。
スタッドレスタイヤ特有の柔らかさを維持しながら、構造面では高剛性(※4)を追求。氷面に接地しやすく、動きにくい(=滑りにくい)タイヤ開発に向けて走り出した大橋に、更なる試練が待っていた。

試行錯誤の日々

断面イメージ図剛性を高める構造と、コンパウンド(※3)の柔軟性の改良方法を探る試行錯誤の日々が続いた。新しい素材探しでは、タイヤ材料開発部(※5)と連携。使用可能な材料の物性データで検討を重ね、タイヤを構成する部品を変更することで強度アップを図った(=高剛性ボディ)。その結果、T mode による性能予測においてもブレーキングとコーナリングの安定性向上が確認できた。

一方、コンパウンド(※3)には、シリカ(※6)を配合。低温時でも柔らかさを保ち、アイス路面に吸い付くように密着。
最大限の接地面積の確保が可能になった。

接地部拡大概念図

顕微鏡写真、モース硬度による硬さ概念図さらに、クルミの量を増やすことで、従来以上のグリップ力を追求(=吸水クルミックスゴム)した。

しかし、高価な材料を使用することでコストアップの問題もあった。
購買部との調整が続いた。

自然との闘い

コンパウンド(※3)とタイヤ構造の組合せを数種類に絞り込み、いよいよアイス路面での実車テストに入った。舞台となるのは、開発のきっかけとなった【TOYO TIRES】の冬季テストコース(※1)。大橋は、意気揚々と乗り込んだ。ここでは、計器による制動データの計測をはじめ、様々な場面を想定した実車テストでコンパウンド(※3)と構造の組み合わせを評価する。「ついに、ここまできた」開発の原点に戻り、気持ちを新たにした大橋。だが、そこで待っていたのは、北海道の過酷な気候。自然との闘いである。走行テストにふさわしい条件は、路面の氷の温度-5〜10℃、路面の表面が変化しないために降雪がないこと。この条件を満たす走行テスト期間は限られてくる。その間、CM撮影なども組み込まれ、限られた時間でテストを効率よく消化することが大橋の課題になった。

テストドライバー(※7)との二人三脚の日々。大橋は評価結果を聞きながら、頭の中でタイヤ内部の変形とパターンの動きをイメージ、設計した構造が機能しているのかを想像した。時には、そのイメージを強めるためにテスト車に同乗もした。雪が降ると、コース上に1m近く雪が積もり、雪かきで丸2日間。その繰り返しで、1週間テストができず、遅れを取り戻すために早朝、深夜にテストすることもあった。

そして、実車テストの結果を持ち帰り、改良コンパウンド(※3)の方向性を決定。タイヤの構造を進化させた2次試作タイヤの設計に取り組んだ。
一連の開発の結果、最終試作タイヤは当時発売中の「ガリット2」と比べて、明らかな性能向上が認められた。そして、ついにタイヤ開発は、最終段階を迎えた。

アイス路面制動距離比較

前代未聞の設計審査会議

2003年冬、全てのタイヤサイズの開発を終え、第2次の設計審査会議(※2)が開催された。通常、この審議はタイヤ技術センター(※8)内で行われるが、この日は冬季テストコース(※1)で行われた。
テストコースで、タイヤの性能を実感してもらいたい!」大橋は自ら上司に願い出た。夏タイヤは市街地でも性能が理解できるが、スタッドレスタイヤの場合は、氷雪路面が必要になる。タイヤ技術センター(※8)のある兵庫県では、氷雪路面が用意できず、これまでは文書による報告だった。実際に、冬季テストコース(※1)で審議を行うことは、開発者にとって大きなリスクがある。万が一、性能が目標に達していなければ開発をやり直すことになる。それでも、大橋は氷雪路面での実施にこだわった。
「実感したからこそ、伝わるものがあった」冬季テストコース(※1)での実施は大好評を収めた。この実感を(タイヤを)売るときの自信につなげて欲しい、大橋は願っていた。

最強スタッドレスタイヤの誕生

2003年8月、大橋の開発したスタッドレスタイヤは「GARIT(ガリット)G30」と名づけられ、発売された。斬新なパターンは店頭でも見栄えがすると、販売店からの評判も上々であった。「いい仕事するね」「手が込んでいるね」など、絶賛の声が大橋に届いた。

開発を支えた一言

「他社にない、新しいタイヤづくり」実は、大橋の開発テーマにはある出会いが大きく影響していた。タイヤの開発者にとって大切なことは、要望を形(タイヤ)にすること。大橋は以前、そう考えていた。しかしある日、市場調査のヒアリングでタイヤ販売店を訪れた大橋は店員から苦言を受けた。「新商品が出ても、何が新しくなったのか、目で見て分からないとお客さんに説明できないよ」この一言が、大橋のタイヤ開発の視点を変える転機になった。販売する立場に立つことで、これまでとは違う考えも見えてきた。「要望を形にするだけで満足してはいけない。新しい商品を開発していく上で、目で見ても分かる新しい技術を新商品に取り入れていくべきだ」この考えは3年後、今回のスタッドレスタイヤ開発「GARIT(ガリット)G30」で実現した。

タイヤに懸ける熱意

現在も、大橋は新しい技術、タイヤの開発に取り組んでいる。「他社にない、新しいタイヤをつくりたい」その思いは今も変わらない。「お客さんに喜んでもらえるタイヤをつくること。売り手が安心して、自信を持って売れるタイヤをつくること。そして、心掛けているのは、自己満足のタイヤ開発をしないこと」と、最後に大橋は笑顔で語った。

(2009年5月改訂)

(※1)冬季タイヤテストコース
北海道常呂郡佐呂間町にある、スタッドレスタイヤの実車用テストコース(1993年に開設)。詳しくは「走れ!タイヤくん:第31回」を参照。

(※2)設計審査会議
新しい商品(タイヤ)を発表する時に、設計や性能、品質を審査する会議。企画、製造、販売の各部門の責任者が出席。

(※3)コンパウンド
タイヤのトレッド部分に使われているゴム。

(※4)高剛性
外側からの力による、変形に対する強さ。

(※5)タイヤ材料開発部
タイヤの材料である、ゴムや繊維、硫黄を開発する部署。詳しくは「プロジェクトTOYO:第3回」を参照。

(※6)シリカ
元素記号SiO2。微粒二酸化ケイ素のこと。シリカを配合することで、冷えてもゴムが硬くなりにくく路面に密着するタイヤになる。だが、高価な材料で混ざりにくい。

(※7)テストドライバー
開発段階のタイヤを運転し、目指した性能に達しているかを評価するドライバー。優れた記憶力、冷静な判断力、操作の正確性が求められる。詳しくは「走れ!タイヤくん:第4回」を参照。

(※8)タイヤ技術センター
兵庫県伊丹市にある、タイヤ開発部門とコンピューター解析部門の施設。様々な路面及び走行条件を室内で再現できるタイヤ試験機を完備している。詳しくは「走れ!タイヤくん:第27回」を参照。



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