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第10回 「トランパスLu」開発秘話 中編 静粛性を追求せよ!

高級感」を具現化した静粛性トレッドパターン。森田が創り上げた新商品「トランパスLu」のコンセプトは、「車内にいる人全てに満足してもらえるタイヤ」だった。
このいわば「夢のタイヤ」作りに向けて、技術開発担当である金井の静かな闘いが始まろうとしていた…。

「トランパスLu 開発秘話 前編」はこちら

「静粛性」への常識を打ち破る方法

2003年12月。森田と共に「トヨタ アルファード」「日産 エルグランド」「ホンダ エリシオン」というフラッグシップミニバン3車種の試走を繰り返してきた金井は、「高級感」が目に見えるトレッドデザインと、後部座席に座る人にも実感できる高い静粛性、走りを満足させる運動性と不均一摩耗(※1)を防ぐゴムの配合バランスという、タイヤを選ぶ者なら誰もが憧れる「夢のタイヤ」作りに立ち向かうこととなった。

野元は、「TOYOにしかできないこと、TOYO全体のブランドイメージをアップさせることをしたい」という情熱をプロジェクトに傾けていた。
野元は、「TOYOにしかできないこと、TOYO全体のブランドイメージをアップさせることをしたい」という情熱をプロジェクトに傾けていた。

プロジェクトメンバーの一員であるタイヤ企画部の野元は金井に言った。「開発コストは気にしなくていい。ミニバンの最高級車種専用の高品質のタイヤを作ってトランパスブランドを牽引して行くんだ」

新商品開発の叩き台として、自社の製品である「トランパスMP3」の性能を解析するうち、金井はその高性能さに越えるべき壁の高さを感じた。
「トランパスMP3」と共存し、互いに商品価値を高めあうようなタイヤを作らなくてはならない。しかし「トランパスMP3」はすでに、ユーザーが十分満足できるレベルの静粛性と快適性を持っている。これを超えて、車内にいる全ての人が実感できる一段上の静粛性を実現することはできるのか…。
ノイズを完全に消し去ることは、物理的に無理な話である。では、高級車にはどんな走行音がふさわしいのか。どんな乗り心地とバランスなら、ユーザーの支持を得ることができるのだろうか。金井は今までの【TOYO TIRES】が持つ試験データを見直してみた。

窮地を救った「3車種限定」コンセプト

そこで意外にも、新商品のコンセプトが事態を解決に導くこととなった。路面走行時のノイズの解析を行った結果、人の耳に騒音として響く315ヘルツのノイズは、軟らかさのあるタイヤが上からの重みでたわんだ場合に発生することが多い事が判明したのだ。
フラッグシップミニバンはいずれも2トンクラス。ミニバンの平均よりも重いその重量を支える硬さを持ったタイヤを作る必要がある。乗り心地静粛性、この2点から、基本的な構造の青写真は出来上がった。
通常のタイヤ開発では「軟らかさを持ったタイヤ」を目指すことが多いのに対して、「硬さを持ったタイヤ」という、常識を打ち破る商品を開発することとなったのだ。

まず、タイヤを支える構造を「高剛性ケース」とした。スチールベルトに高強力の素材を採用し、ベルトの外側にも強力を高めたキャッププライを組み込むことによりトレッド部(※2)全体の剛性を上げ、走行時のたわみを抑えた。これにより、耳に伝わるノイズは大部分が解消されることとなった。
また、さらに「トランパスMP3」より採用となった『トリプルトレッド』でトレッド部を構成。外側のハード部分は「トランパスMP3」よりもゴムの硬度を柔らかくしたことで、内側のソフト部分、そしてトレッド部全体の質量増と相まって、車内に伝わる振動を低減させた。コストにこだわらない開発だからこそ可能となった技術だった。金井は、自分が技術開発の壁を乗り越えたことを実感していた。
「これこそ、3車種限定というコンセプトの醍醐味を感じられるタイヤだ…!」

後席の周波数別ノイズレベル低減(3車種平均)

また、このゴム配合により、摩耗を抑えてタイヤの寿命を延ばすという課題とウェット制動性を実現することもでき、性能バランスの面でも今までのレベルを超えたものとなった。

その上で「T mode」による解析と実車試験による確認を繰り返してサイズごとに剛性の分布を細かく調整し、それぞれを3車種のうちの適合する車種に合ったレベルにチューニングするという、根気ときめ細かさが要求される作業を積み重ね、「トランパスLu」の基礎が完成したのであった。

「高級感」を表現するトレッドパターン

商品の「顔」となるトレッドパターンの決定にも、困難が待ち受けていた。
デザイナーと「高級感」の解釈について議論を重ね、金井と森田はシンプルな直線を基調とするトレッドパターンを採用することにした。上質さとすぐれた機能を視覚からアピールするには、曲線を使って凝ったパターンを作るよりも、直線によりシンプルに機能を訴求するべきだと考えたのである。

しかし、この新しいトランパスのトレッドパターンを見た社内の人々からは「トランパスらしくない」という声が聞かれた。
「パターンがおとなしすぎるんじゃないの?」「もっと凝ったパターンの方が受けると思う」という意見が社内意見の多数を占めたが、プロジェクトチームは動じなかった。確かに、派手なトレッドパターンの方が目を惹き付けるかもしれない。しかし、それは自分たちが求めていたものとは違う。上質感を演出するのに、過剰な派手さは必要ない。彼らは、「トランパス」という壁を打ち破る商品には常識はいらないという信念を持って、周りの意見に流されず、直線パターンの商品化まで漕ぎ着けたのである。

議論を積み重ね決定した「トランパスLu」のトレッドパターンはシンプルさの中に上質感、高級感を感じさせるものだった。
議論を積み重ね決定した「トランパスLu」のトレッドパターンはシンプルさの中に上質感、高級感を感じさせるものだった。

また、この直線パターンの採用に伴い、段差摩耗を抑制する「3Dマルチサイプ」をパターンデザインに採用することで摩耗末期でもノイズを低減させることが可能となった。また、高級感を強調したフラッグシップミニバンに装着した場合にしっくりと似合う『顔』であるか?という観点からも、満足のいくトレッドパターンがついに「トランパスLu」に与えられたのである。

こうして、「トランパスLu」の開発は実現した。常識を打ち破る新しいタイヤが、ついに誕生の時を迎えたのである。そして、このあらゆる面で斬新な新商品に息を吹き込む新しいプロモーションと、よりユーザーのニーズを取り入れたサイズ展開を求めて、森田の地道な努力が始まっていた…。

「トランパスLu 開発秘話 後編」はこちら

(2005年6月掲載)

(※1)不均一摩耗
タイヤの接地面が均一に減らず、タイヤの内側、または外側がいちじるしく摩り減ること。詳しくは「何でもタイヤ講座:Q18」を参照。

(※2)トレッド部
タイヤが路面と接地する部分のこと。



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