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プロジェクトTOYO

第14回 「ガリットG4」開発秘話 前編 〜360°スタッドレスの進化

2006月8月に発売された「ガリットG4」。
2006月8月に発売された
「ガリットG4」。

2006年8月に発売となったセダン用スタッドレスタイヤの新商品「GARIT G4(ガリット・ジーフォー)」は、縦の制動(※1)性だけでなく、横滑りにも強いスタッドレスとして開発された。

2006年7月18日に東京都内のホテルで行われた新商品発表会。商品企画担当の蓮見は、タイヤ開発エンジニアの大橋と共に駆け抜けた企画と開発の日々を思い返していた。
『「ガリットG4」が世に出るまでの約2年半、「360°スタッドレス」という構想を胸に長い道のりを歩んできた…。』
今まで国内のタイヤメーカーが揃って強調してきた縦の制動。スタッドレスの常識を覆す “横にも強いタイヤ”である「ガリットG4」が完成するまでの経緯を追ってみよう。

スタッドレス開発者が抱える苦悩

スタッドレスタイヤ開発担当の大橋は、新しいタイヤに画期的な新技術を取り入れたいという情熱を燃やしていた。
スタッドレスタイヤ開発担当の大橋は、新しいタイヤに画期的な新技術を取り入れたいという情熱を燃やしていた。

2003年、兵庫県伊丹市の【TOYO TIRES】技術センター。スタッドレスタイヤ開発担当の大橋は、人知れずいくつかのアイディアを温めていたが、中でも心にひっかかっているものがあった。

それは、円形と円の中心から放射状に走る線を組み合わせたデザインのサイプ(※2)だった。通常、サイプは縦と横で機能を分けているので形状からも見分けがつく。当然、制動性も縦と横では異なることを前提に設計されている。
しかし、大橋の「円形のサイプ」は、縦横どちらの方向から力がかかっても、同じように滑りを抑えることができるのだ。

しかし、「円形のサイプ」には、スタッドレスタイヤのデザインとしてのシャープさが足りなかった。加えて、雪道での滑りを抑えるサイプとしての性能にも疑問があった。
「これをもう少し改良すれば、縦だけではなく、あらゆる方向への制動性を持つタイヤができるのに…」

大橋はあと少し何かが足りないという思いに悩み、「円形のサイプ」を改良したデザインをいくつも作り続けた。
【TOYO TIRES】のデザインアドバイザーである北海道在住の工業デザイナー渋谷邦男氏にも、度々アドバイスを乞うた。
「カーブは横すべりしがちだというけれど、斜めからも力がかかっている。単純に、縦と横だけではダメなんだ…」
このヒントがきっかけになり、とうとう答えを見つけたのである。
「360°は何でできている?縦・横・斜めだ!円形のサイプを六角形にすれば、どの方向からの力も抑えられるじゃないか!」

こうして大橋は、「円形のサイプ」を「六角形のサイプ」を市場に出せるレベルにまで完成させた。

新世代スタッドレスにふさわしいコンセプトとは?

新世代のスタッドレスタイヤにかける意気込みが、企画担当者である蓮見を駆り立てていた。
新世代のスタッドレスタイヤにかける意気込みが、企画担当者である蓮見を駆り立てていた。

2004年1月、【TOYO TIRES】東京本社。スタッドレス商品企画担当の蓮見は、今までの【TOYO TIRES】が打ち出してきたスタッドレスタイヤのメインテーマ「鬼クルミ」(※3)を超える新機軸を求めていた。
「新世代のミニバン用、そしてセダン用スタッドレスを企画するに当たっては、今までのスタッドレスの性能に加えて課題をクリアする新しい性能が必要だろう。
鬼クルミ配合のクルミックスゴム、これは確かに【TOYO TIRES】の大きな財産だ。しかし、これにプラスアルファの要素を加えて、より安全な、より高いレベルのスタッドレスは作れないだろうか…」

そんな時、蓮見は出張先である北海道での雪道運転中に、カーブでの横滑りを体験した。
十分注意していたつもりではあったが、横滑りは予想以上に起こりやすく、滑り出した時に混乱と恐怖を感じたのである。
「止まりたい位置でクルマが止まる縦の制動は、タイヤメーカーの技術向上で各社の商品がユーザーの信頼を得るレベルになっている。今や雪道を走る時に感じるのは、横滑りへの不安の方が大きいのではないか?縦と同時に横滑りを軽減する性能を、次世代のスタッドレスタイヤのメインコンセプトにできないだろうか?」
蓮見の中に、新しいスタッドレスタイヤのコンセプトのヒントが浮かんだ。

次に、蓮見は北海道警察の協力を得て、雪道での横滑り事故のデータを集めた。横滑り防止に対する実際のニーズを把握するためである。
結果は、多くの事故が、カーブ等の横滑りが原因であるという仮説を裏付けるものだった。

自ら考えた新しいスタッドレスのコンセプトに対して、蓮見は胸の高まりを抑えられずにいた。
しかし同時に、蓮見は大きな不安も感じていた。
「従来の縦と同時に横にも滑らないスタッドレスタイヤは、まだどのタイヤメーカーも実現していない。果たしてこのコンセプトは技術的に実現可能だろうか?」

そして2人は出会った

2004年2月。蓮見は、スタッドレス開発チームの正式な結成に伴い、伊丹の【TOYO TIRES】技術センターに向かった。この時、開発スタッフである大橋と対面したのである。社内ですれ違ったりお互いの評判を聞いたことはあったが、きちんと話をしたのは初めてであった。2人は新しいスタッドレスタイヤのコンセプトを語りあった。

運命の瞬間は、その中で訪れた。蓮見が「横滑りに強い、っていうスタッドレスのコンセプトは悪くないと思うんだけど、横だけに強いと思われるのも困るし、画期的な新技術も必要だし、何かいい考えはないかな」と切り出した瞬間、大橋は雷に打たれたようにひらめいた。
温めてきた「六角形のサイプ」が役立つ運命の時が来たのを感じたのである。

六角形のサイプ!この六角形のサイプが横にも滑らないスタッドレスを実現する!
大橋が作り上げた「六角形のサイプ」を見た蓮見も体が震える自分に気づいた。

「これは、自分が求めていた新しいコンセプトにもつながるじゃないか!360° どの方向にも強い、『360°スタッドレス』。理想のスタッドレスを表現できるシンボルマークにもぴったりだ!
今までにないスタッドレス、スタッドレスの常識を変えるスタッドレスができる予感がする…。」

大橋が完成させた「スパイダーサイプ」。六角形を中心として、縦横に線が走っている。
大橋が完成させた「スパイダーサイプ」。六角形を中心として、縦横に線が走っている。

そして、2005年7月にミニバン向けスタッドレスタイヤ「ウィンタートランパスMK3」が発表となった。
後に、「ガリットG4」と共に【TOYO TIRES】の新世代スタッドレスタイヤの中核となるタイヤである。
この商品には、「スパイダーサイプ」と名づけられた「六角形のサイプ」が採用されていた。今までにないスタッドレスタイヤの新機軸を打ち出し、雪道を運転するドライバーの不安を解消する商品として誕生したのである。

蓮見は、会場で「ウィンタートランパスMK3」の発表会の様子を見守りながら考えていた。
「新世代のスタッドレスの方向性はこれで定められた。このタイヤが採用している新技術を基に、次のセダン用スタッドレスタイヤを考えなくては…」。

新たな闘いが、今始まろうとしていた…。

「ガリットG4 開発秘話 後編」はこちら

(2006年10月掲載)

(※1)制動
ブレーキをかけるなどをして、走行を急に止めたり、スピードを緩めたりすること。

(※2)サイプ
トレッド(タイヤの接地面)に加工した切れ込み。切れ込みでトレッド面を柔軟にして、アイス路面と密着させている。

(※3)鬼クルミ
【TOYO TIRES】のスタッドレスタイヤのゴム部分には鬼クルミの破片を配合している。アスファルトよりもやわらかく環境に配慮した素材でありながら、アイスバーンをしっかりと引っかくことができる。



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