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プロジェクトTOYO

第15回 「ガリットG4」開発秘話 後編 〜吸水性能の秘密

2005年7月に発表となったミニバン向けスタッドレスタイヤ「ウィンタートランパスMK3」。新商品をここまで育て上げた企画担当の蓮見は、部内の異動があり、その後の新世代スタッドレス商品開発を、同じくタイヤ企画担当である瀧に引き渡すことになった。
「新しい時代のスタッドレスへの道筋は見えてきた。しかし、私は異動のため、次のセダン用スタッドレス企画からは離れる。後ろ髪を引かれる思いだが、マーケットを知っている瀧さんなら安心して後を託すことができる。この新技術を生かしてどの方向にも滑りにくいセダン用スタッドレスタイヤを作り、【TOYO TIRES】の『360°スタッドレス』ラインナップを完成させてくれ…!」

「ガリットG4 開発秘話 前編」はこちら

「ウィンタートランパスMK3」に続くタイヤの方向性

新しいスタッドレスタイヤの企画担当となった瀧は、新しい目線での「360°スタッドレス」開発を目指していた。
新しいスタッドレスタイヤの企画担当となった瀧は、新しい目線での「360°スタッドレス」開発を目指していた。

一方、蓮見から、【TOYO TIRES】の『360°スタッドレス』ラインナップ完成にかける熱い思いを受け取った瀧は迷っていた。
「スパイダーサイプをはじめとした、「ウィンタートランパスMK3」の新技術は確かに画期的で、すばらしい。だが、縦にも横にも滑らないという性能は、ユーザーに支持されるのだろうか。それによって、今度のセダン用スタッドレスの方向性は固まる…」

しかし、そんな杞憂は、発売された「ウィンタートランパスMK3」のマーケットでの好評ですぐに消えた。
販売の現場から届くユーザーの声に励まされた瀧は、『360°スタッドレス』をコンセプトとした新世代スタッドレスの方向性に確信を抱くようになったのである。
「お客様が待ってくださっている。来年の冬には、なんとしてもセダン用の新世代スタッドレスを完成させなくては!」

より高い制動性能の「カギ」となるのは…

性能が購入する時の選択基準になることから、スタッドレスタイヤは新商品発売のサイクルを早め、最新の技術を搭載して性能の向上が求められている。一方で、ミニバン用とセダン用ではそもそもタイヤ内部の構造と剛性が異なるため、優れた新技術でもそのまま移植するわけにはいかないのである。新商品の開発チームに加わった瀧と共に、「ウィンタートランパスMK3」から継続して開発に当たったエンジニアの大橋は、大きな課題に立ち向かわなければならなかった。
「サイプ(※1)は新技術を採用する。内部構造は、そもそもミニバン用とは違う。画期的な性能の向上を期待するなら残る要素はゴム配合だ…」

新しいゴム配合の素材の探求

大橋は、材料開発の担当者と共に、ゴムに配合する新しい素材を求め続けた。
【TOYO TIRES】のスタッドレスタイヤには、クルミ殻の細かい粉末が配合されている。クルミの殻は氷の表面をひっかき、滑りを抑えるが路面のアスファルトを削ることはない。粉塵を出さないうえに天然素材でもあり、環境にも配慮した素材と言える。
「クルミに続く、高い性能を引き出す優れた素材を探そう」

数えきれないほどの素材がリストアップされた。植物の茎の繊維、貝殻の粉末…。中には、アルミ粉末、グラスファイバーのような人工的な素材もあったが、これはすぐに候補から外された。
「いくら性能に優れていても、環境に優しくない素材を使ってしまっては【TOYO TIRES】の製品と言えない。クルミと同レベルの性能を持つ、環境に配慮した素材を探すんだ」
おがくず、粘土のような粒子の細かい土、ホタテ貝の貝殻などの、自然界に存在する数々の候補を丁寧に吟味した彼らが、最後に目を留めたのは、吸水効果がある粉末だった。

スタッドレスタイヤのゴムにとって必要な三要素(※2)の一つが吸水能力だ。氷とゴムとの間にある水を取り除き、タイヤが氷に密着するのを助けてくれる。

吸水カーボニックパウダーの粒子拡大図
吸水カーボニックパウダーの粒子拡大図

大橋らは、とうとう水を吸い取る最適な素材に辿りついたのである。「吸水カーボニックパウダー」と名づけられた新素材は、氷の上に存在する水をしっかりと吸い取ってくれる。また、自然界に存在する物質から作られ、環境に負担をかけることが少ないことも確認できた。

「これだ!これが今まで探していた、新世代スタッドレスにふさわしい新素材だ!」
「吸水カーボニックパウダー」の吸水効果を確認した大橋はさっそく瀧に性能向上にたどり着く手掛かりを得たことを告げた。
「大橋さん、やった!これでまた一段階、【TOYO TIRES】のスタッドレスは高みに登ることができるよ!」
数日後、技術センターに出張して大橋と再会した瀧は、喜びに表情をほころばせながら、がっちりと握手を交わした。

「吸水カーボニックパウダー」と、寒冷地でもゴムの柔らかさを保つ高分散シリカとクルミを配合した「NEO吸水クルミックスゴム」は、高い制動性能を作り出す『吸水』『密着』『ひっかき』という三要素(※2)を備えたものとなった。

吸水カーボニックパウダーの吸水モデル図
吸水カーボニックパウダーの吸水モデル図

こうして誕生したセダン用スタッドレスタイヤ「ガリットG4」は、スパイダーサイプなど「ウィンタートランパスMK3」の技術を取り入れつつ、セダン用スタッドレスとして新しい地平を切り開いたのである。
【TOYO TIRES】の新世代スタッドレスのラインナップはこうして完成した。「360°どの方向にも強いタイヤ」を車種に合わせて選ぶことができるようになったのだ。

大橋と、瀧の胸には、更なる新技術と新しいタイヤの構想がある。新しいスタッドレスタイヤ開発には終わりはないのだ。誰もが、どんな状況でも安心して雪道を走れる日が来る、その時まで彼らの闘いは終わらないのである。

(2006年11月掲載)

(※1)サイプ
トレッド(タイヤの接地面)に加工した切れ込み。切れ込みでトレッド面を柔軟にして、アイス路面と密着させている。

(※2)三要素
スタッドレスタイヤが氷上で制動性能を発揮するためには、ゴムの配合を工夫しなければならない。現在ゴム自体の性質には、吸水、密着、ひっかきの三要素が必要だとされている。



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