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プロジェクトTOYO

第16回 「トランパスMP4」開発秘話 前編 ミニバンの壁を打ち破ったお好み焼き理論

2007月1月に発売された「トランパスMP4」。
2007月1月に発売された
「トランパスMP4」。

2007年1月に発売になった【TOYO TIRES】ミニバン専用タイヤの4代目「トランパスMP4」。その発売に至るまでには、タイヤ開発に情熱をかける男たちの、熱き人間ドラマが隠されていたことをご存知であろうか?そんな男たちの挫折と笑顔の結晶「トランパスMP4」の開発秘話の真実に迫る!


プロジェクトのひそかな始動

新商品開発担当となった大野は、自らのドライバーとしての視点を生かし新たな課題に挑んだ。
新商品開発担当となった大野は、自らのドライバーとしての視点を生かし新たな課題に挑んだ。

【TOYO TIRES】を代表するミニバン専用タイヤ「トランパスMP3」の大ヒットが続く中、後継となる次期商品を開発するプロジェクトが、少人数でひそかに立ち上がった。プロジェクトをまとめるチームリーダーとして、商品開発グループの大野に白羽の矢が立てられた。かつてはスポーツタイヤを開発し最近ではSUV等のRV車用タイヤを開発してきた経歴を持つ大野は、さっそく社運のかかったプロジェクトの構想を練るべく、プロジェクトメンバーである商品企画の森田とともに、2005年5月頃からリサーチをする為に全国の【TOYO TIRES】ショップへの巡回訪問を始めた。

逆転の発想からのスタート

従来の商品開発では、こんなタイヤが欲しい、ここをもう少し変えたらどうか?という、ショップやお客様からの意見やニーズを開発の参考にしてきた。しかし、2005年当時の主力商品「トランパスMP3」からは、そういったニーズや意見はあまり聞こえてこない。「大変満足している」という意見が大半だった。具体的なその内容は「腰が強くてしっかりしている」「摩耗に強くて片減りしにくい」といったもので、まさに狙い通りである。「トランパスMP3」の完成度の高さを思い知らされた。これを超えるミニバン専用タイヤを開発することは、なかなか容易なことではない、と思い知らされる結果になったのである。

同年8月頃からプロジェクトメンバーで商品コンセプトを決めるミーティングを重ね、これらの特長は継承すべきという事は容易に決まったが、ここが変わった、という改良点をどこに設定するかがなかなか定まらなかった。
自社の製品「トランパスMP3」が高い壁となって行く手を遮っていた。

「もっといいものを作らなければいけないのに『もっといいもの』が何かわからない…」
大野は寝ても覚めても、タイヤのことばかり考えていた。
そんなある日のこと、ショップでカー用品の棚をぼんやり眺めていた大野は、「クルマの中を整理するグッズも、今はたくさんあるんだな。アイディア商品を使えば、簡単にクルマの中をすっきりさせることができる…」と独り言をつぶやいた。
その瞬間、ふと発想の転換をすることができたのである。
アイディア商品は、手に取って初めてその使い方がイメージできる。タイヤも同じではないか。今までは、ショップやお客様のニーズを取り込んだタイヤ作りだったけれど、今度は逆にメーカーから提案し、お客様に「こんなタイヤが前から欲しかった!」と言わしめるタイヤを作れば良いんだ!
この日から大野の試行錯誤の日々が始まった。

多様化するミニバン市場

販売店を巡り、直接ユーザーの声をくみ上げようと動いた森田は、独自の結論に辿り着いた。
販売店を巡り、直接ユーザーの声をくみ上げようと動いた森田は、独自の結論に辿り着いた。

「トランパスMP3」はミニバン専用だが、実は軽カーやコンパクトカーの背高ワゴンもカバーしていた。大野と同じくプロジェクトメンバーである商品企画の森田は、ショップを巡回していた時「大きなミニバンにはしっかりしていて良いが、コンパクトワゴンにはちょっとゴツ(硬)すぎる」という意見がわずかながらあることに引っ掛かっていた。さらに「動楽メール」の読者アンケートで“満足”という評価をしていても、もっと静かなタイヤを要望するフリーコメントがあることや、次々に登場してくる低床低重心(※1)の新ミニバンにも従来通りのガッチリ硬いタイヤだけで良いのだろうかと疑問をもっていた。
ミニバンと簡単にひとくくりにしていたけれど、ミニバンのジャンルも幅広くなってきているし、ミニバンの使われ方やライフスタイルも変わってきているのではないか?一昔前のセダンのような使い方で、ミニバンに2人だけで乗っている子供のいない若い夫婦を見かけたときのことが森田の脳裏をよぎった。ショップやお客様もその点にはまだ気がついていない。常に販売最前線でお客様に接触し、WEB上のユーザーの声に注目している森田ならではの着想であった。

従来のミニバンは車高が高くフラフラするというのが定説だった。そのためにタイヤを硬くガッチリさせてきた。しかし低床低重心など多様化してきているミニバン全体をカバーさせるためには、運動性能と快適性能を両立させた、しなやかさも併せ持つミニバン専用タイヤが必要になると森田は考えたのだ。そして、連日に及ぶ会議の末、2005年9月「継承(しっかり)と進化(しなやか)を目指し、多様化するミニバン車種全体をカバーする」というコンセプトが決定したのである。
とうとう、コンセプトが明確になった。自らもクルマの運転を楽しみ、ドライバーとしての視点を持つ大野は、このコンセプトに深く共鳴し、心の奥深くで熱い闘志を燃やしていた。

お好み焼き屋で落雷に打たれる

コンセプトは決まった。しかし、それを具現化する手段を大野は模索していた。そもそもミニバン車種全体をカバーし、しっかりしているがしなやかでもあるという全く相反する性能を両立させるコンセプト自体が、現実離れした理想のタイヤに近い。そんな中、追い討ちをかけるかのように社内から「トランパスMP3よりも転がり抵抗を10%低減しろ!」という命題が与えられた。タイヤの転がり抵抗低減は、低燃費につながる。つまり地球環境に配慮するということは、メーカーとしての社会的責任でもある。現在のトランパスは【TOYO TIRES】の主力商品であるがゆえに、メーカーとしての姿勢を社会に示す必要もあったのだ。

開発は難航を極めた。ミニバンの大小を問わずコンセプトを実現するためには、しっかりしながらもしなやかなタイヤで、「トランパスMP3」の特長であった剛性は損なわずに、転がり抵抗をさらに小さくしなければならない。大野は思いつく方法をいろいろ試してみたが、一向に成果は得られなかった。

思い通りに開発スケジュールを消化できない大野は、久しぶりの家族団欒と気分転換を兼ね、近所のなじみであるお好み焼き屋へ向かった。関西在住の大野は、家族を前に慣れた手つきで生地とキャベツを混ぜたが、その時に違和感を覚えた。「今日の生地はいつもより堅いな…」。そして、ちょうど食べごろに焼きあがったお好み焼きにコテを入れ、口にした瞬間、大野の頭を落雷に打たれたかのような衝撃が走ったのである。
「そうだ!お好み焼きの生地だ!お好み焼きの生地を変えればいいんだ!お好み焼きの生地は、タイヤでいうトッピングゴム(※2)、キャベツはカーカスプライ(※3)だ。カーカスプライにあたるキャベツは同じなのに、トッピングゴムにあたる生地の堅さが違えば、食感が違う。生地であるトッピングゴムの硬さを変えればいいんだ!」
これまで、タイヤの剛性を強化する手法として、カーカスプライの繊維を太くしたり、エンド数(※4)を増やしてきた。それらの手法では確かに剛性は上がるが、重量も増えるため転がり抵抗も増えてしまう。カーカスプライを包むトッピングゴムの硬さを変えることで、重量を抑えつつタイヤ全体の剛性をあげる事ができるのだ。

お好み焼きからヒントを得た大野は、わき目もふらずに、とある人物のもとへと向かった。その「とある人物」は、新商品開発のカギを握る男であった。一体、彼はどんな技術で、新商品に息吹を吹き込むのであろうか…。

「トランパスMP4 開発秘話 後編」はこちら

(2007年2月掲載)

(※1)低床低重心
ミニバンの操縦安定性を高めるためにクルマの基盤となる床面を低くし重心位置を低くすること。

(※2)トッピングゴム
繊維やスチールワイヤー等のコードを被覆しているゴムのこと。タイヤ内部の構造は、コードがゴムに包まれた層を重ねて成型されている。

(※3)カーカスプライ
タイヤ内部の構造で骨格となる部分。ポリエステルなどの繊維がゴムに包まれた層になっている。

(※4)エンド数
タイヤ1インチあたりの繊維の打ち込み本数



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