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第17回 「トランパスMP4」開発秘話 後編 実現可能か?低燃費+乗り心地のよいタイヤ

ミニバン専用タイヤ「トランパス」シリーズの新商品開発のコンセプトは、「継承と進化を目指し、多様化するミニバン車種全体をカバーする」であった。設計担当の大野は、完成度の高い「トランパスMP3」をどのように進化させ、新商品「トランパスMP4」の開発を進めていったのだろうか。

「トランパスMP4 開発秘話 前編」はこちら

お好み焼きから新商品のヒントが…

大野はもともと「トランピオ」などのスポーツタイヤの開発をしてきた男だ。自分が作るからには、さらに気持ちよく走れるミニバン専用タイヤにしたい。その気持ちは日を追うごとに強くなっていった。そんな中、お好み焼きから新商品開発のヒントを得たのである。キャベツを包む生地の硬さが変わることで食感が異なるように、カーカスプライ(※1)を包むトッピングゴム(※2)の硬さを変える、高硬度プライトッピング(※3)を採用することで、ミニバン専用タイヤとしての運動性能を確保しつつ、セダン用タイヤ並みの快適性能を実現させようと考えたのだ。

燃費向上を目指す

多様化してきているミニバン車種全体をカバーするために、大野は性能バランスの良いタイヤを目指した。ある1つの性能部分だけが抜き出ていては、幅広いミニバン車種全体をカバーできないという理由からだ。小さいものから大型まで、どんな大きさのミニバンに装着をしても、同じ性能を発揮するタイヤでなければ意味がない。

しかし、大野は特に進化をさせたい性能があった。それは、ころがり抵抗の低減だった。タイヤのころがり抵抗は、低減することによって燃費を向上することができる。ころがり抵抗によって生じる燃費の差は、環境問題が注目されている現在だからこそ、こだわった部分でもあった。大野は、ころがり抵抗に関して構造面で思いつく方法は全てシミュレーションしてみたが、目標とした「トランパスMP3」のころがり抵抗10%低減には届かなかった。
ころがり抵抗の低いコンパウンド(※4)がなければ、この状況の打開策はないのではないか?そう考えた大野は、タイヤ材料部の平松に相談を持ちかけた。

無理難題を実現する人物とは

硬度計でタイヤを切断したサンプルを確認する平松。平松が開発したコンパウンドはテストタイヤに搭載され、ころがり抵抗や摩耗性能が評価された。
硬度計でタイヤを切断したサンプルを確認する平松。平松が開発したコンパウンドはテストタイヤに搭載され、ころがり抵抗や摩耗性能が評価された。

平松は、入社20年目タイヤ材料部きってのスペシャリストである。もともと、大学の工学部時代からゴムの研究をずっと続けてきている平松は、ゴムのことを知り尽くしている。この相談をするには最適の人物だった。
「ころがり抵抗が低い材料(コンパウンド)が欲しいんです」
大野から相談を受けた平松は悩んだ。大野の言っているころがり抵抗が少ない、つまりは燃費がよいという特長と、摩耗が少なく省エネルギーという特長は、一般的に材料としての観点から考えると、本来1本のタイヤの中では両立できないかなりの難題だった。

しかし平松は、喉もとまで出かかった「そりゃ、無理難題やで…」の言葉を、大野の熱意と迫力に負け、飲み込んだ。大野の真剣な眼差しを受けながら、しばらく考えこんだ平松は「…出来なくもない…かな」と一言答えたのである。
実は平松には少しだけだが、秘策があった。以前から、ひそかに研究を続けていた新しいコンパウンドがあったからだ。まだ技術に対する決定的な確信があるわけではなかったが、その新しいコンパウンドを試してみる価値は多いにあった。

小さなガッツポーズ

大野は平松から渡された数十種類の新コンパウンドのリストから、期待できそうな組み合わせを試みた。平松もタイヤのテスト結果とコンパウンド特性を見比べながら、コンパウンドの成分、加工面の微調整をする。テストを重ねる度に、目標値に近づいてゆく。大野は驚きを隠せなかった。
「平松さんは、やっぱり凄い」。平松が開発したコンパウンドのタイヤと、従来のタイヤの試験データの差は歴然としていた。

そして2006年10月ついに、当初は実現不可能だと思われていた、ころがり抵抗の低さ、そして摩耗性の向上をとうとう両立させたのだ。タイヤ試験場からすぐにその結果を聞いた平松は、デスクの前で思わず小さくガッツポーズを決めた。

Newトリプルトレッド構造モデル図

Newトリプルトレッド構造モデル図

3つの異なるコンパウンドを組み合わせることにより、多くの特性を1本のタイヤで両立できた。トレッド(接地面)のベースに低発熱性ゴムを採用し、損失熱エネルギーを最小限に。ころがり抵抗を低減し、低燃費に寄与している。

ころがり抵抗テスト比較指数

ころがり抵抗テスト比較指数

RRC:MP4(136)、 MP3(154)ドラム式ころがり抵抗試験場によるテスト
データ タイヤサイズ:215/60R16 95H リム:16×6.5JJ 
空気圧:230kPa 速度:80km/h 負荷荷重:4.21kN

※このテストに関する詳細なデータは、タイヤ公正取引協議会に届けております。

※このテストの結果は同様な条件下であっても、必ずしも同じ結果が得られるとは限りません。

絶妙な技術のバランスを完成

平松の技術により、ころがり抵抗の低減は実現できた。そこに、大野にとって最後の戦いが待っていたのだ。
「平松さんのコンパウンドを生かしつつ、内部構造の工夫で快適な乗り心地を実感できるようにしなくては…。平松さんの技術に、今こそ自分の技術で応える時なんだ!」

通常、ころがり抵抗の低減を実現すると、路面の状況がダイレクトに伝わるため乗り心地は悪くなるのだ。
大野はこれを打破するべく、平松のコンパウンドに合わせてタイヤの内部構造を細かく調整していった。何度も試験を繰り返しながら、コンパウンドの硬さを受け止めて衝撃を車体には伝えない、しなやかな内部構造を作り上げたのだ。
そして、さらに当時のミニバン専用タイヤ主力商品「トランパスMP3」の左右非対称トレッドパターンなどを踏襲し、ミニバンをフラフラさせないしっかりした性能を継承しつつ、静粛性や居住性の快適性能を進化させていったのである。

構造イメージ図

構造イメージ図
高剛性サイドウォール(運動性能向上)
ゴムを高硬度化し、ケース剛性の
強化を図る。
高硬度プライトッピング
カーカスを被っているゴム層を高硬度な
ゴムに変更し、横剛性を向上。
高硬度ビードフィラー&スチールサイドプライ
ビード部分の剛性をさらに強化。

力を合わせて「トランパスMP4」の開発に力を注いだ大野と平松は、新商品開発の話題になると瞳を輝かせる。彼らの中では、さらに新たなタイヤ作りがもう始まっているのだ。
力を合わせて「トランパスMP4」の開発に力を注いだ大野と平松は、新商品開発の話題になると瞳を輝かせる。彼らの中では、さらに新たなタイヤ作りがもう始まっているのだ。

こうして、大野と平松は新商品を少しずつ理想的なタイヤに近づけることができた。タイヤへひたむきな情熱をそそぐ、真のプロフェッショナル同士の技が、本当の意味でひとつになったのだ。
その時が、完成度の高さゆえに、大きな壁となっていた「トランパスMP3」を超えた瞬間でもあった。
「平松さん、ついにできましたよ!新しいタイヤができました。これなら、お客さまに喜んでいただける自信があります!」
目を輝かせて平松に告げた大野を見つめながら、平松はその肩に手をかけ「よかった。よかった」としみじみと繰り返し言った。

今回誕生した4代目ミニバン専用タイヤ「トランパスMP4」の「ス───ッと走れる」技術の裏側には、こうした開発企画者や技術スタッフの絶え間ない努力や、惜しみない苦労が隠されていた。【TOYO TIRES】の顔として、さらなる進化を遂げた「トランパスMP4」は、世界中のミニバンに愛されることだろう。
そして、大野と平松には、まだまだ挑戦したい技術がたくさんある。タイヤに純粋な情熱を注ぐ男たちの探求の旅に、終わりはない。

(2007年3月掲載)

(※1)カーカスプライ
タイヤ内部の構造で骨格となる部分。ポリエステルなどの繊維がゴムに包まれた層になっている。

(※2)トッピングゴム
繊維やスチールワイヤー等のコードを被覆しているゴムのこと。タイヤ内部の構造は、コードがゴムに包まれた層を重ねて成型されている。

(※3)高硬度プライトッピング
プライコードを被覆しているトッピングゴム(※2)をより高硬度にしたもの。こうすることにより、タイヤの剛性を確保することが出来る。

(※4)コンパウンド
タイヤの原料ゴムに、カーボンやオイルなどの配合剤を混合した、ゴム配合物。タイヤの各部には、目的に合わせて様々なコンパウンドが使用されている。



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