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第23回 「ガリットG5」開発秘話 後編 “ゼリー”がヒント!?ついに見つけた世界初

「冬道でドライバーが出会う、あらゆる危険な瞬間をなくしたい――」。
若き開発者・朝山の熱き思いにより「GARIT G5」の商品コンセプトは、“あらゆる冬道を走破する360°スタッドレス”に決まった。だが、冬道のあらゆる路面に対応できるスタッドレスタイヤ開発は、前代未聞の挑戦。朝山は、この難題を乗り越えるため、ゴム材料のスペシャリスト・平松のもとへと足を運んだのだった…。

「ガリットG5 開発秘話 前編」はこちら

めまぐるしく変わる!冬路面への挑戦

「GARIT G5」の開発で、タッグを組んだタイヤ材料部・平松(左)と、タイヤ技術開発部・朝山(右)
GARIT G5」の開発で、タッグを組んだタイヤ材料部・平松(左)と、タイヤ技術開発部・朝山(右)

変化の激しい冬路面に対応するためには、従来のスタッドレスタイヤの改良、改善ではダメなんです!タイヤの“ゴム材料”そのものから見直さなければならないんです」。
入社22年、大学の工学部時代からひたすらゴム材料の研究を続けてきたタイヤ材料部・平松のもとへと訪れた朝山は、打ち合わせ早々こう切り出した。“今現在”の冬道の路面は、地球温暖化の影響も受け、アイス路面、スノー路面、シャーベット路面、ドライ路面と、北国であっても路面状況のサイクルは早くなっている。だからこそ、今回の商品コンセプト“あらゆる冬道を走破する360°スタッドレス”が求められているのだと、朝山は「GARIT G5」への思いを熱く語った。

めまぐるしく変化する“今現在”の冬路面にも対応できるスタッドレスタイヤ」。
この大きな難題に、タイヤのゴム材料のスペシャリスト平松は、新たなゴム材料を見つけることができるのかと不安の色は隠せなかった。だがしかし、目の前の若き開発者の気持ちになんとかして応えたい…。

「よし、やろう!」
平松は、自身への決意も込めて、朝山に力強く伝えたのである。

難航する新たなゴム材料探し

タイヤのゴム材料のスペシャリスト平松は、新たなゴム材料探しに奔走した。
タイヤのゴム材料のスペシャリスト平松は、新たなゴム材料探しに奔走した。

朝山からタイヤのゴム材料の開発を託された平松は、さっそく新たな材料探しに取り掛かった。【TOYO TIRES】の縦にも横にも強い360°スタッドレスタイヤは、ゴムに配合された「鬼クルミの殻」が生み出す“ひっかき効果”や、竹炭を使った「吸水カーボニックパウダー」が生み出す“吸水効果”により、冬路面での高いスタッドレス性能を発揮していた。“ひっかき”“吸水”に加えて、何が必要なのか?平松は、他社のスタッドレスタイヤの研究だけではなく、ホームセンターやスーパーにも足を運び、新たな材料のヒントになるものはないかと、来る日も来る日も、材料探しに明け暮れた。

ゴム材料を見つけることが、本当にできるのか?第一そんな材料なんてあるのか?
一向にゴム材料を見つけられない平松は、焦りと不安で、工場へと向かう足取りも、重かった。

“ゼリー”がヒント?ついに見つけた新素材

ゴム材料探しに行き詰っていた平松。落ち込んだ気持ちで休日家族と過ごしていると、ある光景を目にした。それは、子どもがおやつのゼリーを食べている姿だ。普段なら何でもない日常の家族のひとコマだが、平松にとってその光景は、タイヤ開発を大きく前進させるヒントに映ったのだ。

ゼリーは常温でも溶けることはなく、冷蔵庫で冷やしても硬くなることはない。寒いところでは硬くならず、あったかいところでも、溶けない。つまりゼリーは、温度に左右されることなく、同じ弾力を維持しているのだ。現在のスタッドレスタイヤは、かなり性能が向上しているとはいえ、寒いところではゴムが硬くなり、路面との接地性が損なわれることがある。路面との接地性が損なわれれば、それだけ、タイヤの接地面積が少なくなり路面で滑りやすくなる。だからこそ、温度差に左右されず同じ弾力を維持できるゴム材料を使えば、“どんな路面にも密着することのできるスタッドレスタイヤ”となりえるのではないか。平松は、ゼリーのような特徴をもつ、ゴム材料を見つけることができれば…。

そのとき、平松の頭の中にある素材が浮かんだ。
そうだ!あの素材が使えるかもしれない」。
その思いは、気持ちが折れかけていた平松に、新たなやる気を吹き込んでいた…。

世界初(※1)採用への闘い

新素材「ナノゲル」※見やすくしたモデル配合のため、実際の配合とは異なります。
新素材「ナノゲル」
※見やすくしたモデル配合のため、実際の配合とは異なります。

平松がゴム材料として着目したのは、ドイツにある特殊化学品メーカー、ラインケミー・ライナウ社の「ナノゲル」だ。ナノゲルとは、超微細(ナノレベル)なゲル状粒子のことで、このゲル状粒子は、ゴム中に分散し、氷温下においても柔軟さ(しなやかさ)を発揮する。また、温度が上がっても高い剛性を維持することもできる。この特徴は、まさに平松が探し求めていたゼリーのような特徴だ。以前「ナノゲル」の紹介を受けていた平松は、スタッドレスタイヤのゴム材料として使用できるか本格的に評価テストを始めたのである。

厳しい評価テストの結果は、概ね良好。平松が期待していた通りの数字が出始めていた。だがしかし――。平松は安堵することはできなかった。
なぜならそれは、「ナノゲル」のスタッドレスタイヤへの採用は世界初(※1)のことだったからだ。ドライバーの安全をのせるタイヤは重要な部品。万が一にも、ミスがあってはならない。いまだ誰も試したことのない材料を使うとなれば、そのプレッシャーは大きなものとなる。

わずかな不安がある限り、この材料を使うことはできない。不安が解消されるまで徹底的に評価テストをしよう」。平松は、そう心に固く誓い、地道な評価テストを積み重ねて、「ナノゲル」採用への自信を深めていったのである。

どんな路面も離さない“吸着性能”

評価テスト開始から数年。平松は、テストにテストを重ね、ついに「ナノゲル」採用の確信を得た。入念な試行錯誤を重ねて、新たなナノゲル配合も決定した。
その結果、低温下では従来品よりもタイヤが硬くならず、アイス路面での密着性を向上させて、アイス性能を高めることに成功したのだ。もちろん、温度が上がっても、タイヤの剛性は失われない。ナノゲル配合により誕生したその性能は、子どもがゼリーを食べる姿を目にしたときに平松が描いたスタッドレスタイヤのイメージそのものだったのだ。
まさにそれは、「どんな路面もとらえて離さない吸着性能」とも呼べる完成度の高さだった。

ナノゲル配合による効果(イメージ図)

また、ナノゲル配合は、さらなる新たな効果ももたらしていた。それは、【TOYO TIRES】の360°スタッドレスタイヤの特徴、「鬼クルミの殻」が生み出す“ひっかき効果”や、竹炭を使った「吸水カーボニックパウダー」が生み出す“吸水効果”が、「ナノゲル」との相乗効果により、さらに性能が向上していたのである。

平松は、思うようなゴム材料の開発を手がけ、これで朝山の熱意に応えることができたと、うれしさをかみ締めていた。

路面との密着効果を向上せよ!

平松がゴム材料の開発を進める一方、朝山は、新技術開発に取り組んでいた。それは、タイヤのセンターブロックに採用した「吸着3Dサイプ構造」だ。

路面との接地性を向上させて、タイヤを路面に密着させることは、“あらゆる路面を走破する360°スタッドレス”のコンセプト実現には必須の課題だ。平松の苦闘を耳にしていた朝山は、タイヤのゴム材料の配合以外にも何かできることはないだろうかと考え、自ら新たな挑戦を始めていたのである。

ブロック内に空洞を設定させた場合の接地圧(イメージ図)どうすれば、よりタイヤを路面に密着させられることができるだろうか」。
朝山は、自身の様々な仮説を試みながら、正解を模索していた。何度も何度も、仮説検証を繰り返していく中で、ひとつの可能性が見えてきた。それは、ブロック内に空洞をつくることだった。ブロック内に空洞がない場合、接地圧力が加わると、その圧力は横にふくらんで逃げるが、真ん中の部分は圧力がかかっても逃げることはできない。だが、ブロック内に空洞をつくれば、かかる圧力が全体的に均一となり、路面との接地性も向上する。「これなら、タイヤの密着効果を向上させることができる!」。しかし、そのためには、さらに超えなければならないハードルがあった。朝山は、さらなる開発へ取り組んでいった。

気の遠くなるようなトライ&エラー

新技術「吸着3Dサイプ構造」には、ひとつの大きな課題があった。それは、何千本、何万本のタイヤをつくるのにも耐えうることができる、強度のあるサイプの金型をつくらなければならないことだった。タイヤの細かな溝部分にあたるサイプは、当然、その金型部分も、細かく薄くならざるを得ない。だが、商品として発売されるタイヤは、何千本、何万本ともなる。大量かつ不良品のないタイヤをお客様に提供するためにも、細かく薄くならざるを得ないサイプの金型部分も、当然、頑丈なものでなければならない。

朝山は、この難題を解決するため、金型メーカーと綿密な打ち合わせを重ね、トライ&エラーを日々、繰り返した。その歳月はなんと2年にもわたった。気の遠くなるような調整とチェックを繰り返した末に、ついに「吸着3Dサイプ構造」完成したのだった。満足のいく金型ができあがったとき、朝山は、やっと安堵のため息をつくことができたのだった。

理想のスタッドレスタイヤ誕生

2009年1月、朝山、平松は、北海道(サロマ)町にある【TOYO TIRES】の「冬期タイヤテストコース」で「GARIT G5」を試乗した。苦労の末に誕生した「GARIT G5」は、これまで二人がずっと思い描いていたスタッドレスタイヤの性能を実現していた。

だが、朝山、平松は根っからの開発者。二人の思いは、また次なる開発へと向かっていた。
さらに上をいく、新商品を手がけたい」。
二人の挑戦は、これからも続いていく――。

(※1)2009年6月現在、当社調べ。

(2014年7月掲載)



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