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第29回 「トランパスmpF」開発秘話 後編 相反する性能を両立した秘策とは?

偉大な先輩である「トランパスMP4」を超えるために必要な性能とは? その最大の難関は、「低燃費」と「しっかり感」の両立にあった! 「相反する性能の両立」、この高い壁を乗り越えるために、若き技術者は粘り強く試行錯誤を繰り返していった。

「トランパスmpF 開発秘話 前編」はこちら

解決のヒントはシリーズの伝統技術!辿り着いた“両立の秘策”とは?

「低燃費タイヤというのは簡単にいうと、少ないエネルギーでよく転がるタイヤなんです。」今回の新商品開発のもう一つのテーマである「低燃費性能」について永井はこう答えた。「でもよく転がるということは、裏をかえせば止まりにくいということなので、つまりグリップは悪くなるんです。」そう語りながら、永井は開発当時の苦労を振り返っていた。

一般的には、タイヤは「転がり抵抗」を低減することで低燃費性能を向上させることが可能だ。しかし、この「転がり抵抗」が低減されると、背反性能としてグリップ力が低下する。とくに雨天走行時のグリップ性能=ウェット性能が悪化する点が永井の頭を悩ませていた。なぜなら「トランパスmpF」の目指す「しっかり感」に、このウェット性能は欠かせない要素だったからだ。

しかし解決のヒントは、意外なところからもたらされたのである。
両立を解決する糸口になればと、改めて「トランパスmpF」の基本設計を見直していた時のこと、ふと永井の頭に「非対称なのはパターンだけでいいのか?」という疑問が浮かんだ。

「トランパス」シリーズでは、伝統的にINとOUTでデザインの異なる非対称のトレッドパターンを採用しており、今回の「トランパスmpF」の開発においても、IN側でウェット性能と操縦安定性を、OUT側で操縦安定性を追求したパターンを採用することが、相反する性能の両立を実現する上での重要な役割を担っている。しかし「もしトレッドパターン以外の部分でも同じ考え方をすることができれば、もっと性能のレベルアップをすることができるのではないか?」と、永井は考えたのだった。

トランパスがこれまで培ってきた技術である、“IN側とOUT側の機能分担”。この考えを追求することで、「低燃費性能」と「しっかり感」の両立という「トランパスmpF」開発の最大の課題は、解決へと大きく前進して行くことになる。

「スーパーエコウォーカー」の技術を高め、辿り着いたコンパウンドイノベーション

「トランパスmpF」の開発チームの永井(左)と平松(右)
「トランパスmpF」の開発チームの
永井(左)と平松(右)

永井が導き出したのは、トランパスの代名詞ともいうべき非対称技術を駆使して、「INとOUTのコンパウンド配合を変え低燃費とウェット性能を両立させる」という考えだった。
永井はアイディアを携えてタイヤ材料部の平松のもとへと走った。平松は永井のアイディアを聞き、驚くと同時に可能性を感じていた。

「トランパスmpF」の開発段階においても、低燃費技術の下地は十分に蓄積されており、タイヤのゴムが走行中変形することで発生するミクロな摩擦によるエネルギーロスを抑制する「アクティブポリマー」など、低燃費タイヤ「スーパーエコウォーカー」の開発で培った技術を使えば低燃費性能を向上させる事自体は可能だった。

しかし、ただそのまま配合するだけでは低燃費性能を高めることができたとしても、当然ウェット性能を確保することはできない。そこで登場するのが永井の考えた左右非対称のコンパウンドの配合だ。平松は早速コンパウンドの配合にとりかかった。

永井の依頼を受けた平松は、まずタイヤのOUT側では転がり抵抗を低減するために、アクティブポリマーとシリカを中心としたスーパーエコウォーカーにならった低燃費性能重視の配合を採用し、従来の「トランパス」シリーズを超える低燃費性能を確保した。
一方で、ブレーキング時に接地面積が大きくなるIN側には、よりグリップの増すグリップポリマーを配合しウェット性能を向上させるという、新しい配合を採用した。

IN側 ウェット性能重視 / OUT側 低燃費性能重視

こうして「低燃費」と「ウェット」という相反する性能を両立する新しいコンパウンドが生み出された。
開発コンセプトとして掲げられた「低燃費性能」と「しっかり感」の両立へのこだわり、そしてトランパスの伝統である「非対称」という考え方が、コンパウンドにおけるイノベーションを生み出す原動力となったのだ。

両立に寄与した“均一”という発想

さらなる低燃費化に向けて、永井が取り組んだのがプロファイルの最適化だった。
プロファイルの開発にあたって、永井がまず考えたのは“トレッド部をより均一に接地させる”ことだ。

右は「トランパスMP4」と「トランパスmpF」のエネルギーの損失率を比較した図だ。タイヤが接地するトレッド部の中心で、赤色の部分がエネルギーを多く損失していることがわかる。

タイヤは転がる時、変形を繰り返し、それによりエネルギーをロスしている。つまりこの変形を抑え且つ均一にすることができれば、エネルギーのロスを小さくすることができる。また接地面の圧力が局所的に高まり不均一になることは、ウェット性能悪化の要因にもなっていた。

ならば、“トレッド部をより均一に接地させる”プロファイルを開発することができれば、さらに低燃費性能とウェット性能を向上させることが可能なのではないか? そう永井は考えたのだ。
事実、この考えによって生み出された「低燃費接地面圧力最適プロファイル」は、実にエネルギー損失を23%も低減することに成功した。そしてこのプロファイル設計の工夫は、低燃費性能とウェット性能の向上以外にも、大きなメリットを生み出すこととなった。

タイヤの接地面に圧力が均一にかかることによって、運動性能そのもののレベルアップを図る事ができ、両立すべき「しっかり感」が向上した上に、さらに背の高いミニバンならではの悩みであった「偏摩耗」の抑制にも一役買うこととなったのだ。

こうして2011年3月、シリーズで培ったしっかり感を進化させつつ、転がり抵抗Aグレードの低燃費性能とウェットグレードbをもった新タイヤ「トランパスmpF」が発売された。相反する「しっかり感」と「低燃費性能」の両立の裏には、タイヤ作りのすべての工程において開発コンセプトを実現するための、地道な試行錯誤や努力があったのだ。

「トランパスmpF」の発売後、永井のもとには社内外から「MP4より、更にミニバンにマッチしたタイヤだね」という新商品に対する賞賛の声が数多く届けられた。はじめてのメイン担当、しかも看板商品である新タイヤの開発…大きなプレッシャーと数々の問題を乗り越え、今その努力の成果はこうして評価されたのだ。

しかし永井は、とどまることなく既に次の夢へと進もうとしていた。
「今回は後継商品の開発という形でしたが、次はまったく新しい…そうですね、これまでになかったような画期的なタイヤを作ってみたいですね。」
そう語った若き挑戦者の瞳は、遥か未来を見据えていた。

※一部サイズはウェットグレードc

(2011年9月時点)



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