トーヨータイヤTOP > 商品開発ストーリー > プロジェクトTOYO > 第32回 「ナノエナジー1」開発秘話 後編

プロジェクトTOYO

第32回 「ナノエナジー1」開発秘話 後編 
先進のナノ技術とTOYO TIRES独自の技術が融合。そして、かつてない次元へ!

【TOYO TIRES】の低燃費タイヤ。中央にあるのが低燃費性能グレード「AAA-b」を達成した「NANOENERGY 1」
【TOYO TIRES】の低燃費タイヤ。
中央にあるのが低燃費性能グレード
「AAA-b」を達成した「NANOENERGY 1」

低燃費性能グレード「AAA-b」達成のための課題は明確になった。だが、まだ誰もつくったことのないタイヤへの挑戦、そして与えられた期日は18ヶ月。課題をクリアするためには、各部署の担当が同時に開発を行っていくしかない。その軸になったのが「Nano Balance Technology(ナノバランステクノロジー)」だった。

「ナノエナジー1 開発秘話 前編」はこちら

開発の新機軸は、ナノ技術!

「NANOENERGY 1」開発のための課題は、言い換えるとそれぞれ次のようになる。

  • ウェットグリップ性能を上げるための材料(素材・配合)と接地圧の均一化を可能にするパターン設計
  • 転がり抵抗を低減するための軽量化を促進する構造設計

「材料(素材・配合)」「接地圧(パターン設計)」「構造」。この課題の前に立ちはだかっているのが『ウェットグリップ性能を上げると、転がり抵抗性能は下がる』ということ。この影響し合う、相反する性能の両立とともにそれぞれを高水準へと引き上げていかなければならないのだ。

「NANOENERGY 1」開発チーム タイヤ材料部担当リーダー 平松
「NANOENERGY 1」開発チーム
タイヤ材料部担当リーダー 平松

同時進行の開発への解決の道筋の一つとして「ウェットグリップ性能を上げるための材料(素材・配合)」の開発を担当したのが、タイヤ材料部の平松だ。

彼は、入社以来ずっとタイヤ材料の開発・技術に関する部署において、そのスキルを積んできた。平松は大学時代の授業で体験したゴムの加工実験でゴムの面白さに魅了され、就職先をゴム関係の会社に決めたという、根っからの“ゴムのスペシャリスト”だ。
そんな平松が、今回の開発で着目し、採用したのが「ナノレベル」での開発だった。

独自のNano Balance Technology

【TOYO TIRES】は、ナノレベルでゴム材料開発を制御する「Nano Balance Technology」を体系化。これは、ゴム材料の「ナノ分析」「ナノ解析」「ナノ素材設計」「ナノ加工」という4つの体系を横断的に統合した独自のタイヤ技術基盤である。
そして今回、低燃費性能グレード「AAA-b」をクリアするために、「Nano Balance Technology」を採用し、ナノレベルの材料設計が行われた。

平松は、「ゴムの中に入れているカーボンブラックやシリカは、数十ナノメーターのものもあり、昔から知らず知らずにナノレベルの材料設計をやっていた」と話す。しかし、それらは、頭の中で考えていたものや知識として認識していたものであった。それらが実際に可視化でき、シミュレーションできるようになったことで、本当の姿・状態を突き詰めていくことができるようになったのである。「なぜ、良くなったのか、想定でしかなかったものの答えが見える。つまり、原材料がもっているそれぞれの良いところを的確に引き出せるようになった」と語る平松。まさに今回の『ウェットグリップ性能を上げると、転がり抵抗性能は下がる』という相反する性能の答え探しにはうってつけだった。

低燃費トレッドコンパウンド
低燃費トレッドコンパウンド

「ナノ分析」と「ナノ解析(シミュレーション)」を繰り返す。それらのフィードバックによって、より適した材料と配合を開発していった。
しかし、その配合の組み合わせ数は、いままでの開発の中でも群を抜いて多かったという。「明確な課題はあるのに、どうやったらゴールにたどり着けるのか」
霧に包まれた道を進むような日々の中で、ひとつの答えにたどり着くことになる。

ウェットグリップ性能を向上させつつ、その影響で悪くなる転がり抵抗への影響を考え、エネルギーロスを低減することに重点をおいて開発されたのが「低燃費トレッドコンパウンド」である。シリカとカーボンを増量し、さらにグリップポリマーを配合することで「転がり抵抗低減・ウェット制動向上」を実現した。

この開発には、新技術の「Nano Balance Technology」が中心的な役割を果たした。しかし、平松は「タイヤ材料部だけでできた開発ではない。開発・材料・工場など、さまざまな部署の大勢のスタッフが関わってできたものだ」と話す。そう、それぞれのプロフェッショナルが経験・スキル・知識のすべてを開発に注いだ結果なのだ。
そしてこれこそが、【TOYO TIRES】の「匠の技」なのである。

原子/分子レベルからエネルギーロスも解明できる「Nano Balance Technology」
原子/分子レベルからエネルギーロスも解明できる「Nano Balance Technology

接地圧の均一化に挑む。

ウェットグリップ性能を向上させるための接地圧均一化がもう一つの課題だ。これは、ブレーキをかけた時の接地状態をいかに均一化させるかという課題である。通常は、ブレーキを踏むとタイヤの両端の接地圧が高くなるのは当たり前だ。両端だけでなく、いかにセンター部分に仕事をさせるかが重要となる。開発担当リーダーの川上は「接地面のすべての領域で仕事をさせる」ことを目標に掲げた。
そこで、着目したのが「リブ幅」と「サイプ」である。
従来品の低燃費タイヤ「SUPER ECO WALKER(スーパーエコウォーカー)」は、センターのリブ幅を広くし、両隣を狭くしていた。そこで、「センターと両隣のリブをほぼ同じ幅にすると圧力が変わるのでは?」という仮説からスタートした。
サイプは、どの方向へどのように入れるかが検討項目だった。

制動時の接地を実際に見ることはできないので、「こうすれば良くなるだろう」という仮説を立て、仮説通りになっているのかを解析によって検証する。そして、ある程度の結果が得られたら、実際にタイヤを作り確認する。このように、前述のナノ材料開発と同様に、仮説と検証の繰り返しであった。
そして試行錯誤の結果、「リブ幅の最適化」と縦方向にサイプを入れた「周方向サイプの配置」によって、制動時の接地圧均一化を実現した。
さらに、ウェットグリップ性能と転がり抵抗性能がアップするよう、パターンデザインにおいてももこだわった。

リブ幅の最適化と周方向サイプ配置によって、制動時の接地圧均一化を実現。ウェットグリップ性能がさらに向上した。
リブ幅の最適化と周方向サイプ配置によって、制動時の接地圧均一化を実現。ウェットグリップ性能がさらに向上した。

これぞ、プロのこだわり!

部材の軽量化と低燃費化によって、ウェットグリップ向上と転がり抵抗低減を両立
部材の軽量化と低燃費化によって、ウェットグリップ向上と転がり抵抗低減を両立

最後の課題として、転がり抵抗低減のため徹底的な軽量化が図られた。接地するゴムと横(サイドウォール)のゴムをギリギリまで軽量化。設計を変えて補強し、剛性も確保している。ここまでは通常のことである。
ところがなんと、低燃費性能グレード「AAA-b」をクリアすべく、「NANOENERGY 1」は地面に接地しない部材までこだわったのだ。タイヤの骨格であるポリエステルのコードをゴムで覆ったプライという部材がある。これを低燃費・低発熱のものに変更した。部材としては非常に薄いものだが、タイヤ全周に入っていることと、タイヤが動くことで、損失エネルギーが多く発生する場所であることから、その被覆ゴムに低燃費Ply-Toppingコンパウンドを採用したのである。
直接的な効果が現れないところも含め、全体としての効果を考える。タイヤのクオリティをアップさせるためには、ミクロにも、マクロにも見極める能力が問われる。それが、プロフェッショナルとしてのこだわりなのだ。

ついに「AAA-b」をクリア!

各部署の担当が同時進行で開発を進めてきた「NANOENERGY 1」は、次々と課題がクリアされ、ひとつのタイヤとして集約された。
開発当初は、ゴールにつながる道のりが見えないスタートであった。しかし、材料、設計、工場など各チームが一丸となった結果として、「NANOENERGY 1」は完成した。

「NANOENERGY 1」開発でタッグを組んだ平松(左)と川上(右)
「NANOENERGY 1」開発でタッグを組んだ
平松(左)と川上(右)

やれば、できる! 最高水準のグレード「AAA-b」を達成したのである。

新しく誕生した「NANOENERGY 1」が世の中に出て、お客様の役に立てるタイヤになるか…。

完成後、川上は「NANOENERGY 1」を装着し、個人的に試乗をした。もちろん、開発中にテストコースで試乗はしている。しかし、テスト時は、テストドライバーではないため自分では運転しない。助手席での感じ方と評価結果だけの判断となる。「やはり、自分で運転して確かめたい」と語る川上は、「自分で乗りたいタイプ」なのだそうだ。
そして、自分で運転することによって、次の課題が見えてくるという。

そう、川上にとって開発はどこまでも続く道のようなものだ。
終わりのない道の先に何があるのか。それを発見するため彼は走り続ける。

(2012年4月時点)



CLOSE