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プロジェクトTOYO

第37回 「トランパスmpZ」開発秘話 後編 
絶対にゆずれない「しっかり感」。絶対に欠かせない「低燃費」。

2014年2月、【TOYO TIRES】のミニバン専用タイヤ「TRANPATH mp」シリーズの最新モデル「TRANPATH mpZ」が発売された。
ネーミングに与えられた「Z」は、既に開発前から決定されていた。その意味は、現時点での究極のミニバン専用タイヤを開発すること、そして、ミニバン専用タイヤをゼロから見直すこと。タイヤ開発第一部商品開発グループの吉川は、どのようにしてこの一大プロジェクトに挑んだのか。<後編>ではそのテクノロジーにフォーカスする。

「トランパスmpZ 開発秘話 前編」はこちら

究極の「しっかり感」を生み出す構造設計。

「究極のしっかり感」を生み出す構造設計
「究極のしっかり感」を
生み出す構造設計

TRANPATH mpZ」では、究極の「しっかり感」を実現するために、構造設計もゼロから見直された。その特徴のひとつが、タイヤの接地面積を限界まで広げた「ワイドトレッド化」である。タイヤが路面に接する面積が広ければ、おのずと安定感は向上する。大きな足でしっかりと大地を踏みしめているようなものだ。

「規格枠いっぱいまでトレッドを拡大しているので、セダン用タイヤと比べれば一目でその広さがわかると思います」
TRANPATH mpZ」の「しっかり感」は、パッと見ただけでも伝わる、と吉川は言う。

また、内部構造においては、タイヤ側面の剛性を高め、不要なたわみや横方向への重心移動を抑える「スーパーハイターンアップ構造」が採用された。これは、カーカスの巻き上げ部分をトレッド付近まで延長してサイドウォールの剛性を確保するもので、高速道路でのレーンチェンジなどで横方向へのふらつきを抑え「しっかり感」を提供する。

スーパーハイターンアップ構造
スーパーハイターン
アップ構造

さらに、トレッドパターンは「TRANPATH」シリーズ伝統の非対称デザインを採用しながら、縦溝を太い3本溝として排水性を向上。同時にアウト側のリブを大きくとった「高剛性リブ化」によって偏摩耗を抑え「しっかり長持ち」を実現。サイプには3Dマルチサイプを採用し、剛性をアップしている。

構造設計とトレッドパターンデザインによって、「しっかり感」とウェットグリップ性能にはアプローチできる。しかし、それらは転がり抵抗を増し、燃費性能を低下させる要因となってしまう。

「低燃費タイヤのグレーディングを獲得するためには、セクションを飛び越え、トレッド配合設計を担当する材料設計グループや、工場の職人さんたちとの連携が必要不可欠でした」
と吉川は振り返る。

燃費性能を両立するための総力戦。

話は逸れるが、自転車のタイヤに空気をめいっぱい入れて、つまり空気圧を高くして走ったときに「軽くなった」と感じた経験はないだろうか?それは、高い空気圧によって自転車のタイヤが縦方向にふくらみ、路面と接する面積が少なくなったから。つまり、タイヤは接地面積が少ないほど少ないエネルギーで転がることができ、接地面積が大きくなるほど大きなエネルギーを必要としてしまうのだ。

それと同様に、「しっかり感」を高めた前述の構造設計において、とりわけ路面との接地面積を限界まで拡大した「ワイドトレッド化」は、タイヤが転がる際に大きなエネルギーが必要となり、燃費性能を低下させてしまう。

「ワイドトレッドにすれば燃費性能が下がることはわかっていました。でも、接地面積の拡大によって得られるしっかり感は絶対にゆずれない。何しろ、究極のミニバン専用タイヤなんですから」
吉川は熱く語った。

吉川は、低燃費化を達成するため、材料設計グループと連携。低燃費タイヤ「ナノエナジー」シリーズによって培われた「Nano Balance Technology(ナノバランステクノロジー)」を発展させた、まったく新しい「ミニバン専用トレッド配合」の開発を進めた。

Nano Balance Technology」とは、ナノレベルでゴム材料開発を制御する【TOYO TIRES】の革新的な技術基盤である。ゴム材料を構成する分子レベルでのシミュレーションを可能にし、タイヤコンパウンドの設計、トレッド配合技術を格段に進化させた。そして、ミニバン専用タイヤをゼロから見直すという「TRANPATH mpZ」開発にも大きな推進力をもたらした。

Nano Balance Technology(ナノバランステクノロジー)

耐摩耗ポリマーを採用することで、摩耗ライフを向上。さらに、スーパーアクティブポリマー、ウルトラグリップポリマーを最適なバランスで配合し、ナノレベルでのシミュレーションを重ね、転がり抵抗とウェットグリップ性能の高度なバランスを達成したのだ。

「実は、タイヤの接地面ではない、サイドの部分にまでも低燃費ポリマーを配合しています。ほんのわずかではありますが、こうした細かなアイデアも転がり抵抗を良くしているんです」

さらに吉川は、工場の職人たちとも連携し、生産工程からも燃費性能の向上に取り組んだ。まっさらなタイヤにトレッドパターンを焼き付けて硬化させる「加硫(かりゅう)」の工程において温度や時間を精密に調整することで分子結合の最適化を行い、コンパウンドのパフォーマンスを最大限に発揮させることに成功した。

「とても大雑把に言ってしまえば、構造設計でしっかり感を出しながら、パターンデザインでウェットグリップやロングライフを、トレッド配合や製造工程に新しい技術を採用することで低燃費化を達成している、と言えるかも知れません。でも、実際にはそれだけではなくて、いろいろと、本当に細かなところまで工夫を積み重ねているんです」

“均一”から“美しい”接地形状へ。

燃費性能の向上は、コンパウンドだけで実現したものではない。タイヤが路面に接する接地形状を整え、接地圧の分散を最小化することによって、転がり抵抗を下げ、ウェットグリップ性能も高めている。

「何度も解析をくり返して、タイヤの接地形状を美しく整えていきました。きれいに、均一に、圧力が分散するように整えることで、エネルギーのロスが少なく、燃費もロングライフも向上させることができるからです」

赤い部分が接地圧の高い箇所。高い負荷がかかる条件下でも接地圧の偏りが少ない。
赤い部分が接地圧の高い箇所。
高い負荷がかかる条件下でも接地圧の偏りが少ない。

この、接地形状の均一化という発想は、前作「TRANPATH mpF」でも取り入れられ、高い水準で達成されていた。これを「TRANPATH mpZ」ではさらに進化させ、高い負荷がかかった条件下でも接地圧の偏りが起きにくいレベルに引き上げられている。これは、年々室内空間が拡大し、車両重量も増加の一途にあるミニバン市場を見据えた高性能化でもある。

こうして、試行錯誤を重ねながら数々の課題をクリアし、
「しっかり支える」
「しっかり長持ち」
「しっかり低燃費&ウェットグリップ」
という性能バランスを実現していった「TRANPATH mpZ」。

すべてがうまく運んだように思えたが、ここで、営業セクションから疑問の声が上がった。まさしく、全社をあげた総力戦ならではの出来事だった。

ゼロから生まれた、セダンのような乗り味。

営業セクションからの疑問は「なぜ一種類のコンパウンドになってしまったのか?」というものだった。

前作「TRANPATH mpF」では、タイヤのイン側とアウト側でそれぞれ別の役割を持ったコンパウンドを採用した左右非対称のトレッド配合設計をセールスポイントにしていた。だが「TRANPATH mpZ」では、一種類のコンパウンドによって前作の性能を超えてしまったのだ。
吉川はこう振り返る。
「セールスの現場や販売会社からしてみれば、【TOYO TIRES】だけのセールスポイントであった非対称のトレッド配合設計を無くしてほしくない、という声があるのは当然だと思いました。でも、技術者としてはあくまでも性能重視という姿勢を貫きたかった」

開発チームは、2種類のコンパウンドによる非対称設計も当然視野に入れていた。しかし、革新的な技術基盤である「Nano Balance Technology」によって新しいトレッド配合が生み出された結果、一種類のコンパウンドでも、低燃費性能、ウェットグリップ性能、ロングライフ性能を両立させることが可能になったのだ。これもまさに「Z」が意味する、ミニバン専用タイヤをゼロから見直した結果と言える。

「最終的には、実際にタイヤを触ってもらい、そのしっかり感を実感してもらうことができました。見ただけでも頼れるタイヤであることはわかりますし、実際に触ると、本当にしっかり感を納得してもらえる仕上がりなんです」

「TRANPATH mpF」に比べ、レーンチェンジ直後も、揺り返し後も、ともにふらつきが小さく収まりも早い。
「TRANPATH mpF」に比べ、レーンチェンジ直後も、
揺り返し後も、ともにふらつきが小さく収まりも早い。

TRANPATH mpZ」には、見ればわかる「しっかり感」、触ってわかる「しっかり感」があると言う。
それでは実際に乗ってみると、どうなのだろうか。「TRANPATH mpZ」を試乗した感覚について、吉川はこう語った。

「テストコースなどでかなりシビアな運転をしてみましたし、高速道路でも試乗を重ねてみましたが、しっかり感は明らかに違う。ミニバンを感じさせないというか、かなりセダンを運転しているような乗り味になっています」

「TRANPATH mpZ」開発担当の吉川
「TRANPATH mpZ」開発担当の吉川

「TRANPATH mpZ」が開発前から与えられていた使命。
究極のミニバン専用タイヤを意味する「Z」。
元祖ミニバン専用タイヤの原点に帰る「Z」。
その「Z」への道は、数々の試行錯誤の連続だった。そして同時に、まったく新しい「TRANPATH」シリーズの扉を開くことでもあった。

吉川はインタビューの最後に「乗って楽しいミニバン専用タイヤになりました」という表現を加えた。
一人のクルマ好きとして思い描いた「運転する楽しさをもう一度感じられるミニバン専用タイヤ」を誕生させた自信がそこにはあった。

(2014年2月時点)



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