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プロジェクトTOYO

第40回 「オブザーブGARIT GIZ」開発秘話 前編 
【TOYO TIRES】のスタッドレス史上、最高レベルのアイス性能へ。

2014年8月に発売された「OBSERVE GARIT GIZ」
2014年8月に発売された
OBSERVE GARIT GIZ

2014年8月、【TOYO TIRES】のスタッドレスタイヤシリーズに、新たにフラッグシップモデルとなる「OBSERVE GARIT GIZ」がラインナップされた。
このタイヤの開発担当に抜擢されたのは、入社10年目、タイヤ技術本部の構造設計者担当坂本、そして共に入社7年目となる、ゴム材料担当の遠近と、トレッドパターンデザイナーの谷口だ。若い三人はどのようにして開発に挑み、アイス性能を各段にアップさせたのか。その開発ストーリーに迫る。

開発チームは、若き「三本の矢」。

OBSERVE GARIT GIZ」の開発担当に抜擢された坂本は、入社10年目。お客さまの生の声にこだわる開発者だ。たとえば、カー用品店などで自分の開発したタイヤを履いているクルマを見かけると、ついつい「このタイヤ自分が作ったんですよ。どんな感じですか?どこが良かったですか?」などと話しかけてしまうという。

「もちろんマーケティングのデータも大切にしていますが、どうしたらお客さまが喜んでくれるか、何をもって買ってくれるのかと、お客様の顔を思い描きながら開発しています。自分のやりたいことを突き詰めるだけでは『開発』ではなく『研究』になってしまうと思うんです」と坂本は語る。

「OBSERVE GARIT GIZ」開発担当の坂本
OBSERVE GARIT GIZ
開発担当の坂本

坂本は、もともとライトトラックなどの車種が好きだったこともあり、入社後は、小型トラック用のLTタイヤや、海外向けタイヤ、VAN&ライトトラック用スタッドレス「DELVEX 934」などの開発に携わってきた。そして今回、乗用車用スタッドレスタイヤのフラッグシップモデルを開発するという重責を担うことになった。初めての経験ということもあり、最初はプレッシャーも感じていたという。

「でも、ゴムのスペシャリストである遠近と、パターンのスペシャリストである谷口と、三人ならできる。一人じゃ何もできないけれど、三人ならできる。そんな、まさに『三本の矢』のような気持ちでスタートしました」

坂本はそう切り出し、足かけ5年間におよぶ開発の長い道のりを振り返った。

10%の性能向上を目指して。『吸水』をテーマに。

OBSERVE GARIT GIZ」の開発は、2010年の商品企画会議から始まっている。さらに言えば、2014年、この製品化が決まった瞬間から次のスタッドレスタイヤに向けた開発も始まっている。冬道でしっかり『止まる』『曲がる』という根幹的なスタッドレスタイヤの性能追求は【TOYO TIRES】にとって立ち止まることが許されない課題なのだ。

この、途切れることのないスタッドレスタイヤの開発において、今回は、2009年8月に発売された「GARIT G5」からアイス性能を10%以上引き上げることが目標値として掲げられた。

アイス性能、つまり凍結路面での性能に特化して、他のすべてを犠牲にすれば、もっと大きな目標値も達成可能だが、積雪路面、シャーベット路面など、どんな路面でも性能を発揮し、そのうえで諸性能のバランスをとるとなるとハードルは高い。

坂本は試行錯誤を重ねた。凍結路面での制動距離、コーナリング性能を10%以上高める。これを達成するにはどうしたらいいか?どうすれば、お客さまに満足してもらえるスタッドレスタイヤになるか?突破口を探すため、ショップへ足を運び、エンドユーザーとも対話を重ねるうち、『吸水』というキーワードへの注目度が高いことに気づいた。

トレッドパターンデザイナーの谷口
トレッドパターンデザイナーの谷口

さらに、ユーザーの声を大切にする坂本にとって、トレッドパターンデザイナーの谷口が北海道出身であったことは心強かった。坂本は石川県出身。雪道の運転にも慣れてはいるが、ミラーバーン、ブラックミラーバーン、圧雪路など、さまざまな路面状況を知る生活者の視点は得がたいものであった。

「夜中のカチカチに冷えた道路より、昼間、少し溶けたくらいの道路のほうが滑りやすい、というのは北海道では誰でも知っています。ぼくの母もよくそういう路面で滑って苦労していました」と谷口は言う。

こうした生の声を中心に据えながら、かつ、マーケティングも加味しながら、坂本は、「OBSERVE GARIT GIZ」の開発テーマを『吸水』に定めた。

「100人の技術者がいたら、100通りの開発プロセスがあると思います。同じ性能のスタッドレスタイヤでも、違うチームが作ったら、違うテーマを選んでいたかも知れませんが、ぼくは『吸水』を最大のテーマにしました」と坂本。

これまで【TOYO TIRES】が培ってきた三大効果『吸水』『吸着』『ひっかき』のすべてを生かしながら、このなかの吸水力を各段に引き上げることで、10%のアイス性能向上を達成する。これが坂本の狙いだった。

ゴムはアイス性能を頑張れ。他はなんとかする。

坂本の決断により、開発チームの意思は『吸水』に統一された。
材料部門の遠近はコンパウンドの素材そのものから『ミクロの吸水』に挑み、谷口はトレッドパターンデザインから『マクロの吸水』に挑む。

遠近と谷口は、ともに入社7年目の同期だ。10年目の坂本とも年齢が近い。開発チームは若い「三本の矢」であったが、言いたいことを言い合い、腹を割って語り合えるチームワークが強みでもあった。

材料開発担当の遠近
材料開発担当の遠近

遠近は「OBSERVE GARIT GIZ」の開発過程をこう振り返る。
「坂本さんから『ゴムはとにかくアイス性能を頑張ってくれ。他はなんとかするから』と言われたのが印象的でした。タイヤの性能は足し算ばかりしていくと相反する部分が出てくるので、本来は構造設計やトレッドパターンとのバランスを考えながら素材を作るのですが、とにかくゴムで『吸水』を頑張れと」

材料部門では、常に、新しい素材を探求している。スタッドレスタイヤの素材についても、毎月スタッフ全員がアイデアを出しながら膨大な数を評価し、さらに、そのなかから選ばれた素材のみが、毎冬の設計部門の机上にあがる。スタッドレスタイヤの根幹的な性能追求は立ち止まることがないのだ。

遠近は語る。
「とにかく『吸水』をテーマに凍結路面で止まることだけを考えて、いくつも提案を重ねました。アイデアや理論値だけでボツになることもありましたが、最終的には、前作よりも吸水効果が高く、素材自体に親水性のある新コンパウンドの開発にたどり着きました。素材には企業秘密も多いので具体的に言うことはできませんが、素材も作り方もまったく新しいものです」

NEO吸水カーボニックセルのサイズイメージ
NEO吸水カーボニックセルのサイズイメージ

こうして、まったく新しいスタッドレスタイヤ用のコンパウンド「NEO吸着ナノゲルゴム」が誕生した。配合された「NEO吸水カーボニックセル」は、従来の「カーボニックパウダー」に比べ、標準的な大きさのものでも直径が約20倍。天然由来の成分で環境にも配慮しながら、水を吸い上げる力を各段に高めることに成功している。
また、氷点下でもゴムの柔らかさを保つ「ナノゲル」を配合し、路面への密着性を向上。もちろん【TOYO TIRES】が20年以上培ってきた鬼クルミの殻も配合し、ひっかき効果を発揮している。

忘れられないひと言「自然をなめるな」。

『吸水』をテーマに一致団結し、それぞれに熱い思いを込めて開発を進めてきた三人であったが、若さゆえに壁にぶつかったこともあった。

それは、開発がスタートしてから約3年後。
他社の動向や時代の変化にも目を向けながら、素材とトレッドパターンデザインの大枠を固め、社内プレゼンテーションを行ったときのことだった。

プレゼンテーションの後、開発部門の大先輩から、ひと言。
「自然をなめるな」と叱咤を受けた。
大枠は決まっていたが、ディテールや微細な部分の詰めが甘かったのだ。

坂本はこのときのことを、こう振り返る。
「戦う相手は、他社でも誰でもなくて、自然そのもの。その根本的な部分を再認識して、あらためて身が引き締まりました」

なかでも、トレッドパターンデザイナーの谷口にとっては「いつか地元の北海道で使われるスタッドレスタイヤの開発に携わりたい」という念願が叶ったプロジェクトだっただけに、そのショックは大きく、帰りの駅までの記憶がなくなるほどだったという。

しかし、落胆ではなかった。
立ち向かう相手はあまりに大きいが、心に迷いはない。
時間は限られているが、道はまっすぐだ。
意を新たにした坂本と谷口は、魂を込めてディテールの追求に再度取り組んだ。

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(2014年8月時点)



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