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プロジェクトTOYO

第41回 「オブザーブGARIT GIZ」開発秘話 後編 
「三本の矢」のチームワークが刻まれたトレッドパターン。

2014年8月に発売された「OBSERVE GARIT GIZ」
2014年8月に発売された
OBSERVE GARIT GIZ

足かけ5年におよぶ歳月をかけて開発された、スタッドレスタイヤシリーズの最新モデル「OBSERVE GARIT GIZ」。
開発構造設計担当の坂本、素材ゴム材料担当の遠近、トレッドパターンデザイナーの谷口。若い三人の開発チームは、先輩のひと言に身を引き締め、ついに【TOYO TIRES】史上最高レベルのアイス性能を達成することになる。開発秘話<後編>では、細部まで魂を込めてデザインされたトレッドパターンにフォーカスする。

「オブザーブGARIT GIZ 開発秘話 前編」はこちら

どんな小さなサイプにも意図がある。

開発がスタートしてから約3年後。ディテールの詰めが甘く「自然をなめるな」と大先輩から叱咤を受けた、若き開発チーム。

開発担当の坂本は、あらためて身を引き締めていた。そしてそのとき、トレッドパターンデザイナーの谷口は、学生時代のある出来事を思い出していた。

トレッドパターンデザイナーの谷口
トレッドパターンデザイナーの
谷口

谷口は北海道で過ごした学生時代、摩耗したスタッドレスタイヤを履いたままスリップしてしまい、レッカー車のお世話になった経験がある。今では絶対にあり得ないことだが、当時はあまりに若く、タイヤの寿命などほとんど意識していなかったのだ。

谷口は、この体験が今の自分につながっていると言う。
「自分が【TOYO TIRES】に入りたいと思ったきっかけのひとつでした。タイヤひとつでクルマの運転というのはこれほど変わるんだということを実感して、タイヤ業界に入りたいと。そして、いつか必ずスタッドレスタイヤの開発に携わりたいと思っていたんです」

初心を取り戻した谷口は、坂本とともにトレッドパターンデザインのディテールを突き詰めた。大枠は決まっているとはいえ、さらにそこから細部をひとつひとつ検証し、すべての要求性能を満たしていく過程は長く険しい。

トレッドパターン設計について説明する坂本(左)と谷口(右)
トレッドパターン設計について説明する
坂本(左)と谷口(右)

サイプの太さ、深さ、角度、数、切り込み方、表層の形状、それらすべてに意図がなくてはならない。【TOYO TIRES】にとって、どんな小さなサイプにも無駄と妥協は許されないのだ。二人の検証は夜を徹することもしばしば。退社後に二人だけで時間をとることも珍しくなかった。そして、いくつものアイデアを生の声を交わしながら、少しずつ突破口を見出していった。

【TOYO TIRES】の匠の技術、3Dサイプに突破口。

タイヤのブロックは、中央部分をセンターブロック、内側外側の端の部分をショルダーブロック、その間に位置する部分をメディエイトブロックと呼ぶ。

OBSERVE GARIT GIZ」の開発テーマは『吸水』を主軸としているとはいえ、これらすべてのブロックで吸水性能だけを追求するわけにはいかない。耐久性や排水・排雪効果、コーナリング性能や轍の走行性なども考え、すべての性能を満たさなくてはならないのだ。

二人は、各ブロックのそれぞれの役割分担をあらためて見つめ直し、路面に接地するうえでいちばん大事なセンターブロックの吸水性能をピンポイントで高めることにした。そして谷口は、【TOYO TIRES】のお家芸である3Dサイプに自身のアイデアをプラスして、ひとつの提案を試みた。

新吸着3Dサイプのイメージ
新吸着3Dサイプのイメージ

3D構造のサイプの内側に、制動時にも空洞を保つ仕組みを持たせてはどうか。そうすれば、接地時にかかる力が内向きに分散し、接地面をより均一にすることができる。しかも、サイプの溝の空間をつぶさないので、その空間がスポイトのように吸水性を発揮し、制動時のエッジ効果も一段と高められるというものだ。

谷口がこのアイデアを先輩に提案したところ「これなら行けるんちゃう」という、さりげないひと言が返ってきた。若い谷口にとって、先輩からのこのひと言は飛び上がるほど嬉しいものだったという。

このアイデアは「新吸着3Dサイプ」と名付けられた。そして、遠近が開発したゴムの素材そのものによる『ミクロの吸水』と、トレッドパターンデザインによる『マクロの吸水』を両立する糸口となった。

改良の連鎖を超えて生まれたトレッドパターン。

トレッドパターンのディテール追求はさらに続く。メディエイト部分には、二つの大型ブロックを連続して配置し、力が加わった際にはブロック同士が支え合う機能を持たせた。通常は単独のブロックとして雪をかきながら、制動時にも、旋回時にも、縦横どちらの方向からでも力が加われば瞬時に噛み合い、グリップを高める効果を発揮する。これは、谷口自身が「コンビネーションブロック」と命名した。

ただし、大型ブロックを使用することで排水性が損なわれてしまってはハイドロプレーニングなどが起こりやすくなるため、ショルダーからメディエイトまでを貫く連通スリットを設けるなど全体のバランスをとっていった。細部の改良は、さらに細部の改良へと連鎖していくのだ。

トレッドパターンに採用されたさまざまな新技術

また、ショルダー部には、これまでの技術を進化させた「全方向ファーストエッジ」を使用し新品のタイヤでも360度あらゆる方向へエッジを効かせ、バットレス部には「高剛性ショルダー」を採用。轍の走行性、肩落ち摩耗の抑制にも貢献している。

そして、佐呂間のテストコースへ。

こうして、いくつもの難関を乗り越えて、「OBSERVE GARIT GIZ」はテストドライブの日を迎えた。場所は北海道佐呂間のテストコース。気温はマイナス10℃。

結果は、「GARIT G5」と比較してアイス制動性能で10%、アイスコーナリング性能で14%、それぞれ向上していることが実証された。

試験場所 東洋ゴムサロマテストコース
試験タイヤ 評価タイヤ(新品) OBSERVE GARIT GIZ 195/65R15 91Q
比較タイヤ(新品) GARIT G5 195/65R15 91Q
試験車 トヨタ カローラアクシオ(1496cc・4WD・ABS付)
リムサイズ 15×6.0(アルミホイール)
タイヤ空気圧 (前/後) 210kPa/210kPa
荷重 2名乗車相当
外気温度/路面温度 -6.0℃/-7.6℃
試験方法 速度40km/hの直進走行からフルブレーキング(ABS付)し、40km/h〜停止するまでの制動距離を計測する。試験回数5回以上の平均値。
制動距離 OBSERVE GARIT GIZ/42.3m・GARIT G5/46.8m
 
試験場所 東洋ゴムサロマテストコース
試験タイヤ 評価タイヤ(新品) OBSERVE GARIT GIZ 195/65R15 91Q
比較タイヤ(新品) GARIT G5 195/65R15 91Q
試験車 旋回計測専用車両(2491cc・4WD・ABS付)
リムサイズ 15×6.0(アルミホイール)
タイヤ空気圧(前/後) 210kPa/210kPa
荷重 1名乗車
外気温度/路面温度 -13.7℃〜-14.9℃/-11.6℃〜-12.2℃
試験方法 凍結路旋回横力計測試験速度20km/h一定で、直進走行を行い、コーナー進入付近でロックするまでステアリングを切ってコーナリングフォースを計測する。試験回数5回以上の平均値。
※本テストの結果は同様な条件下であっても、必ずしも同じ結果が得られるとは限りません。
※詳細データはタイヤ公正取引協議会に届け出ています。

若き三人の開発者は、「OBSERVE GARIT GIZ」のテストドライブにどんな感想を抱いたのか。その答えは、三人三様だった。

「テストドライバーさんに乗せてもらったのですが、非常に乗りやすいという声をいただきました。ジャーナリストさんからも評判がいいようですし、客観的な評価が嬉しいです」と、ゴム材料担当の遠近。

「ぼくは、自分で運転させてもらいました。アクセルを踏んだときの動き、止まる直前の動き、ハンドルを切ったときの最初の動きなど、節目節目での挙動で性能がすぐ感じられました。北海道のみんなに、ぜひ一度は乗って欲しいです。乗ってもらえれば絶対に良さを感じてもらえますから」と、谷口。

あくまでエンドユーザーの生の声を大切にする坂本は、試乗の手応えを語りながらも、冷静に見える。坂本は、開発を終えた達成感と、性能への自信は実感しているが、お客さまが良いと言ってくれるまでは心の底から喜べない、緊張していると付け加えた。

左から、谷口、坂本、遠近。
左から、谷口、坂本、遠近。

しかし最後には笑顔でこう語り、インタビューの場を笑いで包んだ。
「でも、やっぱりこのタイヤを履いているドライバーを見つけたら、話しかけてしまうと思います。『ちょっとすいません!なんで買ったんですか?これぼくが作ったんです!』なんて」

ひたむきにゴムと向きあう、遠近。北海道に暮らす家族や友人を思い描きながら、念願のスタッドレスタイヤ開発に関わった、谷口。一見クールな印象だが、お客さまを第一に考え、思わずユーザーに話しかけてしまう熱き開発者、坂本。
若い三人のエンジニアが、三本の矢となって開発した「OBSERVE GARIT GIZ」には、細部まで彼らのチームワークと情熱が刻み込まれている。

(2014年8月時点)



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